1分で読める創作小説

MURASAKI

きみとわたしの18年と3週間

 小さく絞り出すような声で、私の腕の中で鳴いたのは18年と3週間前。

 まだ生まれて一か月ちょっとしか経たないきみを抱き上げた。


「もうドライフードを食べますから」


 まだよちよち歩きのきみは、母猫ときょうだいたちと一緒にわたしの前に差し出された。どの子よりもか弱く、小さかったきみ。

 引き離された寂しさでいっぱい大きな声で鳴いたね。

 わたしは少しだけ後悔したのを記憶している。まだ小さな子を母やきょうだいと引き離してしまったことに罪悪感を感じたから。


 連れ帰ったその日の夜、大きな声で鳴きやまないきみをケージから出すと、わたしの枕元にやってきて小さな円を描いて収まったとき「絶対に幸せにする」と心に誓い、小さくはち切れそうな肉球を触りながら私も一緒に夢に潜った。


 そんなきみは想像できないほどやんちゃだったから、わたしはとても嬉しい苦労を沢山した。よその猫と喧嘩して大けがしたこともあったし、バイクに跳ねられて入院したこともあったね。

 何かあるたびに病院に駆け込んで、何にもないのに様子が変だと駆け込んだ時は、獣医の先生にも呆れられたものだった。


 きみもわたしもお互いが大好きで、本当に大好きで。


 いつまでも一緒に居られると思ってた。


 きみとわたしの18年と3週間は長いようで一瞬だった。この世から消えまいと必死に抵抗するきみに、わたしが「もういいよ」と言うと安らかになった瞬間は、今でも鮮明に蘇る。

 


 今はねこのくにで「悪くない」暮らしをしているんだってね。

 わたしはきみの幸せを、今でも想っているよ。


 だからまた、逢えたらいいな。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る