第2話 アドバンテージ
生まれて五年、この世界の少年としての体と声を手に入れた。
見かけだけは、誰もが認める”心優しい少年”だ。
だがそれはすべて偽り。庇護欲を引き出すための、計算された演技だ。
本当の俺は、前世の記憶を携え、この世界の筋書きを知る転生者。
――未来に立ちはだかる者を冷徹にリストアップする。感情など必要ない。
必要なのは生き延びること。ただそれだけだ。
俺が生まれつき持っている”精神干渉”の力は、
視線と言葉を媒介に、心の奥へわずかな衝動を植え込む異能。
原作では突然変異として描かれ、化け物扱いされた能力だ。
力を誇示した原作の俺は、結局、正義の主人公に討たれて幕を閉じた。
だが俺は違う。
この力は、絶対に隠し通してみせる。
表向きは「物わかりの良い優しい子供」を演じ、裏でこっそり能力を使おう。
誰からも疑われず、誰からも恨まれずに事を運ぶのだ。
最初の標的は叔父、グラハムが良いだろう。
原作では十数年後、家を裏切り敵国と通じる男だ。
俺が処刑されるきっかけを作る張本人……物語が動く前に潰すしかない。
――ある夜、庭で酒を煽り、女中を口説く叔父を見つけた。
父を見くびるような態度をとるものの、自らの愚かな行動により器の小ささを露呈させている……。
「叔父さま」
子供らしい声で呼びかけると、グラハムは面食らった顔をし、
それから酔った勢いで俺の頭を乱暴に撫でた。
俺はその瞬間を逃さない。視線を絡め、ほんのわずかに力を流し込む。
『兄を妬め。兄を憎め。力を求め、自分に正直になれ』
――微細な衝動を心の奥に埋め込み、すぐに距離を取る。
「はは……兄貴のガキのくせに、生意気に俺を呼ぶんじゃねえよ」
ぶつぶつと愚痴をこぼす叔父の目は、
いつの間にか父の執務室をにらみつけていた。
「……この家を、いつか俺のものにしてやる」
独り言を呟いた瞬間、俺は確信する。芽は根付いた。
原作では十数年かかった裏切りの炎が、これで加速する。
やがて自らの欲望に呑まれ、破滅に至るだろう。
俺はわざとらしく首をかしげて、無邪気に言った。
「叔父さま、夜更かしは体に悪いですよ」
その場にいた女中は「まぁ、優しい子」と目を細めた。
――そうだ。俺は善人を装う。誰にも怪しまれず、未来を塗り替える。
原作の愚か者たちのように力を誇示するなど絶対にしない。
この世界に、本当の俺を知る者など誰一人としていないのだ。このアドバンテージを活かさない手はないだろう。
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