第12話

 雲の流れはまるで気分の移り変わりと似ている。驟雨を運ぶ空を眺めていれば、自分の心がどのように移ろいでいるのかがわかるというものだ。


 分厚い雲が夕立を運んでくるのがわかれば、きっと無意識のうちに心は深く沈んでいるのだろう。白映えのような薄い雲は、その反対だ。


 教室には一人。世界から弾き出されたのけ者の如く、静まり返っている。雨音だけが部屋を埋め尽くしている。



 しかし、そんな雲の隙間から晴れ間が指す刹那。湿気を含んだ風が肌を撫でる。通り抜けた感触を右手で追随するように撫でる。きっと彼女は―――


「よお」軽く右手を挙げて彼女は現れる。陽の光に目を細めれば、彼女の姿が浮き彫りになる。


「また来たのか。」僕は短く答える。


「今日はどうする?また君の家でゲームでもしようか。」彼女は手でコントローラーを持つ動作をする。彼女の提案も悪くはないが―――


「いや、今日は....」僕はその場で考える。「晴れてるし、今日は少し寄り道してから帰ろう。」


 彼女は少し驚いたような様子を見せる。「珍しいね。そんなこと言い出すなんて、何か変なものでも食べたんじゃないか?」


 ひどい謂れ用だが、基本的に僕は彼女が連れ出さない限り家に帰って本を読むだけの生活だ。たまには外を歩く気になっても悪くはないだろう。


「そんなにか?全く......どうする?先に僕の家言ってるか?」「いや、一緒に行くよ。どこに行くか知らないけど。」


「なにも考えていないよ。」僕はそのままの想いを口にする。「ただ、今は少し気分がいい。柄にもないことをしようと思っただけ。」


 彼女の方を振り返りながらそう呟けば、彼女はくすりと玉のように笑い、「いいね。いいと思う。さあ、行こうか。」僕の手を引いていた。


 雨のやまぬ神座町の一つの灯が、お天道様になるかの如く、彼女の戦気に日差しが照り付けた。


 

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