第8話
僕の家に彼女が来ることは、もう珍しくもなんともなくなっていた。彼女は最初こそ、「お邪魔します」と礼儀作法を重んじていたものだが、途中からは靴も投げ出すように入り込むようになった。
僕の家には、僕意外住んでいない。家族とは世界が異なるため、僕はここで一人暮らしを敢行しているのだ。
家族仲は悪くはなかったとは思う。むしろ良好なくらいだ。それでも合わない理念や思想が、長く住んでいれば出てくることもある。どこでも同じことだ。
中略。僕の言え、僕の部屋には、そこで完成されている。狭いマンションの一部屋。5階建てのエレベーター付きだ。誰ともすれ違ったことがないため、彼女が弾い馬手のお客ともいえる。
「さて、今日は何をしようか。スマブラか?」彼女はモニターの下にしまった箱からコントローラーを二つ取り出す。あまりにも慣れた手つきで。
「そうだな。スマブラもいいけど......良く飽きないな。昨日、コントローラー壊してなかったか?」
「そうだっけ?」彼女は首を傾げた。「でもここにあるじゃない。まだ使えるよ、これ」
ひょいとコントローラーを持ち上がる。彼女の手には余るのか、少し重心が傾いている。
「それに、飽きるも何も、こう雨が多くちゃやることがないからな。晴れヶ極端に少ないよ。自然と室内でできるものに限られてくる。」
雨の降る街、神座町。この世界の舞台とでも呼ぶべき中心地。
雨がやまなくなったのは、この世界が出来てからであったか。すべからく泣き続ける空は、偶に一筋の光を覗かせたかと思えば、またすぐにその瞳を閉じるのだ。
しかし、彼女が外に出ようとするときには決まって光が差す。快晴を運ぶかのように、日暈を暈にし、爛々と輝くよう。
「まあ、そうだな。......今日は何を賭ける?」僕は木の抜けたような表情で彼女の方を向く。決まって彼女は―――
「千疋屋のアプリコットタルト!!」彼女は溌剌に答える。呆れながらも「はいはい。」と僕もコントローラーを手に取った。
季節を失った栗花落が、しゃあしゃあと視界を滲ませた。
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