1000字で綴る物語
遊井そわ香
宇宙
「星は動いています。ひしゃくの形をした北斗七星は、五万年後。フライパンのような形に変わります」
プラネタリウムの解説員の言葉と共に、ドームに映っている星たちが動く。
ある星は右に。別な星は左に。
北斗七星を形作っている七つの星も別々に動いて、ひしゃくの形が崩れた。
星はゆっくり、動いている。
大昔の人が見た夜空と、今の夜空、未来の人が見る夜空は同じではない。
僕は宇宙の壮大さに感動し、胸が熱くなった。
ドームに映っている数字が進んでいく。五万年後、六万年後……十万年後、二十万年後。
そして、百万年後。
解説員が語る。
「私たちは今、百万年後の夜空を見ています。みなさんが知っている星座は、どこにもありません。百万年後の人たちは、この星とこの星を繋げたら、犬に見えるぞ。こっちは大きな三角形だ。そう言って、新しい星座を作っているかもしれませんね。みなさんは、どのような星座を作りますか?」
隣に座っている友達が「あれとあれとあれを繋げて、トカゲ座だ」と指差した。
トカゲ座……同じことを、僕も考えていた。
プラネタリウムが終わった。僕は友達に熱く語る。
「北極星は、地球から430光年離れている。つまり、430年前に北極星が放った光を、僕たちは見ているんだ!」
「宇宙が好きなんだな」
「うん! 宇宙を研究する人になりたい!」
「野球選手は?」
僕の父は、現役野球選手。そして、僕と兄はリトルリーグに入っている。
誰もが、僕の夢は野球選手だと思うだろう。
「なれるわけないよ。だって……」
才能ないから、という言葉は飲み込んだ。
夕方。小学校の校庭で、仲間たちとキャッチボールをする。
小さい頃の夢は、父のような野球選手になることだった。
だけど、わかってしまった。兄と違って、僕は体が細いし、肩も強くない。どんなに頑張ったって、兄のようになれない。
両親は兄に期待している。父は僕に「好きなことをしていいんだぞ」と言う。
見上げた夕空。星が輝いている。
星を見ているのは、今。けれど、星が放った光は遠い過去のもの。
プラネタリウムに一緒に行った友達に教える。
「西の空に輝いている赤い星、火星だよ」
「火星って見えるの?」
「うん。それだけじゃなく……」
「金星や水星や土星も見える?」
「うん……」
僕が言おうとしていたことを、友達は先回りした。
心が読める? もしかして、宇宙人?
現在と過去、夢と諦めが混在するように、人間の中に宇宙人も紛れていたりして……。
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