人間失格 太宰治と3人の女たち(俺的解釈)

脳病院 転職斎

第1話

太宰治文学を広めるために内容知ってた上でネタバレします。


人間失格 太宰治と3人の女たち


1930年冬、鎌倉の海岸で二人の男女が心中を図る。


男は小説家の卵、太宰治。女は銀座のカフェ、ホリウッドの女給シメ子である。


致死性の高い睡眠薬、カルモチンを服用して入水した二人だったが、これから死ぬと言うところでシメ子は別の名前の男性を思い出し、ケンジさん助けて!っと叫び出す。


え?俺の名前じゃねーのかよ?


ガッカリした太宰はシメコを蹴飛ばし、意識があるうちに自分だけ浜に上がる。そして、


あー死ぬかと思ったよ!と開き直る。


時は立ち、太平洋戦争終結後、

太宰は妻と子供に恵まれながら、売れっ子作家として東京に住んでいた。


太宰は小説を書くためならどんな汚いことだってやる男で、今度は不倫小説を書こうと構想を練っていた。


そんな時、一人の女・静子が現れ、私はあなたの子供を宿してあなたの作品になりたいですと訴えてくる。


このことで味を占めた太宰は、静子の日記に目を付け、それを盗作しながら名作「斜陽」を書き進めていく。


二人は、

「人間は恋と革命の為に生まれてきた」

と主張するローザ・ルクサンブルクを超えて、


「古い道徳を平気で無視してよい子を得たという満足がある」

「恋しいひとの子を生み育てることが私の道徳革命の完成」


と言う静子の哲学に従った大作・斜陽を書き上げる。


この時、実際に静子は太宰の子を孕っている。


もちろん、太宰の元には妻と子供達が居た。

太宰はクズである。


作品作りのために不倫したあげく、子供まで設けている。


やっていることは外道だが、斜陽はたちまち大ヒットし、当時のベストセラーとなった。


酒が大好きな太宰は売り上げで毎日パーティーを開き、記者達を招いて自慢ばかりしていた。


そんな時、ある公務員の青年が訪れ、太宰に向かってこう言い放つ。


「私はあなたが嫌いだ。まず、あなたの顔が嫌いだ。あなたは高尚な文学の世界を見世物小屋染みた安い娯楽に落としてしまった。これほど恥ばかり晒しておいていつまで生きていくんですか?」


それを聞いた太宰は、

なんだかんだで君も僕の作品が好きだからここに来たんだろう?と詰め寄る。


青年は、近づくな!と太宰を振り払う。


すると太宰は、じゃあここで死んでやるよ!よーく見とけ!と、

おもむろに自分の首を絞めていく。そして呼吸困難になる。


青年は、こんなの醜悪だ!と言い放ち、その場を去る。 


実は青年、若かりし頃の三島由紀夫だった。


そんな三島の軽蔑とは裏腹に、太宰は、心中で生き残ったこと、精神病院に入院したこと、不倫したこと、壮絶な人生体験を丸ごと小説にしてスターダムにのし上がっていった。


太宰の周りには、三島のように彼を毛嫌いする者がたくさんいた。編集者の佐倉も、太宰を毛嫌いしていた。


それでも敵も多ければファンも多い。


次の小説を書こうと、太宰はまたターゲットを探し出す。


そんな時、屋台のうどん屋にて飲酒中だった太宰は、美容師の富栄と知り合う。


次兄・山崎年一(としかず)が旧制弘前高等学校で太宰の2年先輩だったことや、富栄の下宿が太宰行きつけの小料理屋の筋向いだったこともあり、富栄は太宰に親しみを持つようになる。


このとき富栄は太宰の著書を一冊も読んでいなかったが、

「戦闘開始! 覚悟をしなければならない。私は先生を敬愛する」

と日記に書いた。


富栄は、太宰から、

「死ぬ気で恋愛してみないか」


と持ちかけられ、太宰夫人・美知子の立場を気遣いつつも、


「でも、若し恋愛するなら、死ぬ気でしたい」 

と答える。


やがて、二人は不倫の関係で結ばれた。


時を同じくして、編集者の佐倉は、また太宰が不倫していることに気が付いた。


こんな死神のような人物を無垢な女性達に近づけてはならないと佐倉は奔走する。そして富栄本人にも忠告するのだったが、


「あら、良いではありませんか?先生は大小説家なんだから、私は先生の作品のヴィヨンの妻になります。」


と言って話を聞いてくれない。


激昂した佐倉は、富栄の服を引き裂いて抱きつこうとする。もちろん富栄は抵抗する。


「嫌だ!離して!」


すると佐倉は言う、


「見ての通りあなたはただの女だ!それ以上でもそれ以下でもない!先生はあなたのことなんか元々何とも思っていないんだ!斜陽の時のように子供を遺すことももうありませんよ!」


富栄は対抗して言い放つ。


「作ってみせますとも!私は先生との間に子供を作ってみせます!」


ガッカリしてその場を後にする佐倉、そしてそれからは狂ったように太宰に子供を嘆願する富栄。


相変わらず不倫三昧の太宰だったが、そんな太宰の破廉恥を支えていたのは妻の美知子だった。


太宰の妻、津島美知子(1912〜1997)


美知子は、相も変わらず破天荒な太宰を支えている。


開き直って不倫を正当化する太宰だったが、佐倉からは大反対されるし、三島由紀夫のようなアンチも現れるし、富栄からも子作りばかり要求されてスランプに陥っていくようになる。そんな中で暖かく迎え入れてくれたのは、菩薩のような妻、美知子だけだった。


そんなある日、不安に駆り立てられた太宰は美知子に身体を求めた。


美知子は快く受け入れてくれたのだったが、どうも調子が乗らない太宰。


そんな太宰を見た美知子は、ポツリとこう言い放つ。


「書きたいんでしょ?あなたにしか書けない大作が?」


!?


太宰の脳裏にはもう一人の人物の顔が浮かんだ。


編集者・佐倉である。


「先生はクズだ!クズだからこそ、先生にしか出来ないクズの極みの大作を書き上げて下さい!あなたは人間失格だ!」


そんな言葉を思い出していると、美知子も続けて言う。


「あなたは家庭になんか縛られていては大作を作れません。あなたが大作を作り上げるためなら私達をめちゃくちゃにしても私は構いません。壊しなさい。私達を。」


それから何かに吹っ切れた太宰は、何日も原稿用紙と睨めっこした。


思えば恥の多い人生でした。

と、冒頭を書き出し、付けたタイトルの名は人間失格。


ボロボロの体で不眠不休で人間失格を書き上げた太宰は、富栄に誘われて玉川上水に行く。ここで一緒に死にましょうと富栄は太宰に告げる。


「ああ、いいよ。その代わり離れないように紐を強く縛らないとね。」


「分かったわ。これくらい固く結ぶから、先生と私は二度と離れ離れになりません。」


ドボン。


二人は致死性の高い睡眠薬カルモチンを服用して水に飛び込んだ。


太宰は水中で深い眠りに入り、意識を失ってしまう。辺りは月に照らされない暗闇だけが広がる。


それからどれだけ水中を彷徨っただろうか。だんだん薬の効き目が途切れたのか、大宰は水中で目を覚ましてしまう。


あー!死ぬかと思った!


と言いたかったのだろう。そしてまた帰って深酒とタバコが待っている。


だが時すでに遅し。太宰の足は、紐でしっかり富栄と結ばれている。


ハッ!?


まずいと思い我に帰る太宰。


しかし富栄の身体が錘になり、太宰は水中奥深くへゴボゴボと沈んでいくのであった。

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人間失格 太宰治と3人の女たち(俺的解釈) 脳病院 転職斎 @wataruze

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