謎の光と弾け飛ぶ対象 この世界は分からないが無双する

足脳柄京悟

エピローグ



祐介(ゆうすけ)は、どこにでもいる普通の中学生だった。教室の隅に座って、黒いリュックサックを床に置き、ノートに書く字は丁寧で大きめの字だが、声は小さく、ナヨナヨしていた。体育は得意じゃないし、成績も目立つほど良くはない。3.4 と言ったところか。友だちはいる。けれど、心の中でいつも「俺なんか……」とつぶやくクセがあった。


「祐介、放課後、一緒にゲームしない?」

友だちの拓人(たくと)が笑いながら声をかける。祐介はぎこちなく笑って、「うん、いいよ」と答えた。家に帰ってからの少しの時間が、蒼にとってほっとできる時間だった。


だがその日の午後、下校途中の角で悪い空気が見えた。四人の不良が自転車の前に立ちふさがり、遠くで笑っている。彼らは制服のボタンをわざと留め忘れたふうにして、腕時計やスマホを見せつける。近づくと、そのうちの一人が祐介を見つけた。


「おい、あいつか。顔、いつも暗いな」

「何かいじって遊ぼうぜ」


蒼は足を止めた。心臓がドクドクと大きく打つ。逃げたい。けれど、前に進むしかない。拓は近くにいない。蒼は小さくつぶやく。


「……や、やめてよ。俺、何もしてないよです、」

変な喋り方になってしまって、

今日初めてあった不良に笑われてしまった。

不良の一人がにやりと笑って、蒼のランドセルをはたき落した。教科書が散らばり、道に落ちる白い紙の端が風に舞う。


「お、勉強ばっかりしてんのか。笑わせんなよ」

「金でも出せよ、泣きそうな顔してるし」


言葉は軽くても、ひとつひとつが胸に刺さる。祐介は頭の中で昔の場面が浮かんだ。――あの日のことだ。


小さかった祐介は、運動会の日に弟のリョウを守れなかったことを思い出す。リョウはいつも元気で、祐介は自分よりも弟を笑わせるのが得意だった。だが、その日は違った。リョウが遊具から落ちかけたとき、蒼は咄嗟に手を差し伸べられなかった。周りの子どもたちの笑い声、先生の注意、それにどう反応していいかわからず、祐介は固まってしまった。結果、リョウは小さなケガをして、大きな泣き声をあげた。母は祐介を抱きしめ、「なんで助けてあげられなかったの?」とだけ言った。そして蒼は、救えなかった自分の弱さを初めて噛みしめたのだ。


その記憶が、いつも蒼の胸にくすぶっている。「助けられなかったらどうしよう」「また失敗するかもしれない」。だから祐介はいつも、二歩下がってしまう。前に出る勇気が出ない。弱さを見せるのが怖い――そんな思いが、今日も膨らむ。


不良の一人が祐介のジャケットの袖を引っ張る。蒼は息を止めた。だが、ふとした瞬間、別の声が聞こえた。


「やめろよ、その程度で誰かを傷つけるな」


背後から現れたのは、学校のサッカー部の先輩、黒木だった。彼は時々怖い顔をしているが、心のなかは正義感の強い人だ。黒木が不良を睨むと、彼らは面倒くさそうに肩をすくめて去っていった。


「おい、お前、大丈夫か?」黒木は言った。祐介はふらふらと立ち上がり、教科書を拾い集める。


「ごめんなさい……ありがとう御座います、先輩」祐介は小さく頭を下げる。顔が熱い。助けられたことに、心のどこかがふっと暖かくなる。


その夜、家に帰った蒼は自分の部屋でノートを開いた。窓の外は静かで、街灯がポツポツと光っている。母が作ったラーメンの匂いが遠くまで漂っていた。祐介は日記をめくり、鉛筆を走らせる。


「今日も、俺は逃げた。でも、助けてくれる人がいた。俺もいつか、誰かを守れるかな……」


鉛筆を置いた瞬間、胸の中に小さな誇らしさが湧いた。黒木先輩に助けられたこと、そのときの自分の震える声、誰かのために立った瞬間の心の高鳴り。それはほんの一瞬だが、祐介にとっては光のようなものだった。

黒木先輩にはなんてことない後輩の一人だったかもしれないけど、僕にとっては一歩を踏み出したいような日だったんだ。


学校では、時々そんな小さな出来事が広がる。ある日、クラスで行われたボランティアの話し合いで、蒼が自分の意見を小さな声で言ったことがきっかけで、その活動はうまく回り始めた。みんなが「いいね」と頷き、先生が「ありがとう」と言ってくれた。拓人が肩を叩いて笑う。

「祐介、やるじゃん。たまにシャキッとするよな」

「うん、意外と頼りになる」


その言葉に、蒼は胸がふくらんだ。普段は影のように見える自分が、ちょっとだけ誰かの目に映った気がした。心の中で小さな自信が芽生え、蒼は少しだけ調子に乗った。


「俺、やればできるかもな」――そう思って、つい笑顔が大きくなる。


だが次の瞬間、古い記憶が顔を出す。リョウの泣き声、母の目、あのとき助けられなかった自分。蒼は急に背筋が寒くなる。


「いや、でも俺なんか……結局いつかまた失敗するに決まってる」


周りの拍手や友だちの言葉が遠くなる。自分を持ち上げる気持ちと、それを踏みつぶす自分。祐介はその二つを同時に抱えていた。小さな自信が現れては、すぐに自己否定に押しつぶされる。その揺れが、祐介の日々だった。


ベッドにもぐり込み、蒼は天井を見上げた。星は見えない。だが胸の中には小さな火種がある。助けられた気持ち、ほめられたときの嬉しさ――それが消えてしまう前に、祐介は自分に小さな約束をした。


「いつか、ちゃんと守れるように……少しずつでいい。逃げないでみよう」


その言葉は小さく、頼りない。だが蒼の心は、その頼りない言葉を握りしめて、眠りについた。


――これが蒼の平凡な、そして少し不器用な毎日の始まりだった。



--おまけ

タイトル はしっかり決まってないので

こっちの方がいいよ ってあったら

どうぞ って感じです


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