人間あがりの御神体
天坂 透真
第1話石にされた俺
——天国か地獄か。
死んだ俺が辿り着いた先で、閻魔様は腕を組んで俺を見下ろしていた。
「ふむ……お前はどっちにも振り分けられん。直感で決めるぞ」
え、直感!?
俺が叫ぶ間もなく、閻魔様は手をかざし、印を切った。
視界は真っ暗になり、意識は底へと落ちていく。
次に目を開けたとき——俺は石だった。
ただの岩ではない。
鳥居の奥、拝殿の中央に鎮座する御神体。
しめ縄を巻かれ、榊が供えられている。
村人たちが次々にやってきては手を合わせる。
「石さま、どうか見守ってください」
……いやいや待て。俺は石じゃなくて、人間あがりだぞ!?
どうしてこんなことに。
声を出そうとしても届かない。
手足を動かすこともできない。
ただ祈りと願いの声だけが押し寄せてくる。
受験に合格したい。
病が治りますように。
今年こそ豊作でありますように。
そのたびに胸の奥に何かが流れ込んでくる。
温かくて、切実で、重たい願い。
最初はうるさいと思った。
だが、やがて不思議と感じ始めた。
——守らなきゃ。
声も届かず、動けもしない。
けれど、この場で願いを受け止めることならできる。
人の心を預かるのは、思っていたよりも悪くない。
俺の転生は、失敗なのか、それとも始まりなのか。
答えはまだわからない。
ただひとつだけ確かに言える。
ここに祀られた瞬間から、
俺はもう「ただの人間」じゃなくなった。
——人間あがりの御神体。
それが、俺の新しい役目だ。
人間あがりの御神体 天坂 透真 @eiji14
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