公園にて

遠山ゆりえ

第1話

まだまだ夏の空気が残る9月のある日、僕は愛犬ショコラと一緒に公園でフリスビーをして遊んでいた。


ショコラは雄のトイプードルで3歳になる。そろそろ落ち着いてもいい年頃なのだが、飼い主の僕に似たのか、おっちょこちょいだ。


この広い公園では犬と遊ぶのはOKなので、休日にはショコラとよく利用する。ボール遊びをしている恋人同士らしい人達や、シートの上でお弁当を食べている家族連れ等、それぞれ楽しく過ごしていた。


その日は少し風があり、木陰に入ると夏の暑さがちょっぴり柔らいだ。


フリスビーは風向きによってあっちこっちに飛んで行ってしまう。それ程運動神経がよくないショコラはキャッチ出来ず、落ちてしまったフリスビーを探していた。


そして、僕に向かって意気揚々と駆け寄って来たショコラはフリスビーではないものをくわえていた。帽子だ!!


誰かが落としたか、風で飛ばされてしまったのだろう。白い柔らかそうな素材の帽子にはショコラの唾液がついていた。


「すみませーん!その帽子、私のでーす!拾ってくれてありがとう!」


小柄で20代位の女性が僕らの方へ大きく手を振って走って来た。


ショコラをかかえた僕の目の前で止まった彼女は、うっすら汗をかき、頬は上気していた。それからペコリと頭を下げた。


「すみません、風に飛ばされてしまって困ってたんです」


化粧っけのない彼女の顔にはソバカスがあり、無造作に束ねられた長い髪からシャンプーの良い香りがした。


この香り。あぁ、昔付き合ってた人もこの香りのシャンプーを使っていたっけ……。


一瞬ぼーっとしていた僕だが慌てて言った。


「あ、すいません!犬がくわえたもので、グチャとなってしまって……。クリーニング代だします!」


「えっ!いやいや、いいですよ〜。使い古されたものだし、洗濯機でがんがん洗えますから」


にっこり笑った彼女の笑顔に僕はやられてしまった……!!


「あ、あの、この公園はよく利用するんですか?」と僕は聞いてみた。


「今日が初めてです。実は3日前に越して来たばかりで。とてもいい公園ですね。」


「そうですよね。犬を自由に遊ばせることが出来る所って、なかなか無いので助かります。僕は、あそこのマンションに両親と住んでます。マンションはペットOKだからそれも嬉しいです」


「私もあのマンションに越して来たんですよ!偶然ですね~。これからもよろしくお願いします!」


おお、新しい恋はこんなことから始まるものだよな……と僕はほくそ笑んだ。


その時向こうから声が聞こえた。


「お~い。ママ、帽子見つかったか?」


背の高い青年がベビーカーを押して、こちらに向かって来た。


ソバカスの彼女は青年に答えた。


「パパ〜、見つかったよ!この方のワンちゃんが拾ってくれたの!」


青年は僕に近づき挨拶をした。


「ありがとうございます。妻がご迷惑をおかけしました」


僕の恋は、ものの5分も経たずに終わってしまった。






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公園にて 遠山ゆりえ @liliana401

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