魔法生物で水上レース!〜異世界でボートレース始めました〜

吉良 鈴

波間に揺れる六色の夢

#1 第12R 優勝戦

スタンドの前方。大時計の前、スタートとゴールが見える最高のポジションで私は左手に舟券、右手に揚げシュウマイ串を握りしめ、静かに水面を見つめていた。風はわずかに吹いている。波は穏やか。今日は間違いなく優勝戦にふさわしいコンディションだ。




「さあ、いよいよ第12レース、優勝戦です! 注目は1号艇のイン戦ですが、4号艇のスタート力にも注目です!」




実況の声がスピーカーから響き、選手入場のファンファーレが鳴り響く。観客席では自分と同じように舟券や予想紙を握り、スタート位置に着くのを見守っている。彼らは知っている。ファンファーレを聞いている今!この瞬間が最も楽しい時間であると。自分の信じた予想、船に託した希望が叶うかもしれない。


そんな希望に満ちた輝かしい時間なのだから。




「スタートまで、5秒……」




エンジン音が高まる。




艇が水面を震わせる。




「スタートしました! 全艇、ほぼ横一線! おっと、4号艇が飛び出した! これは速い! まくりに行くか、いや……!」




さすがの優勝戦である。フライングはないようだ。




「いけぇぇぇ! 4号艇、ぶっちぎれぇぇぇ!」


「イン潰せ! まくれぇぇぇ!」


「差せ!差せ!差せ!」




観客席が一気に沸騰する。4号艇が一気に加速し、外からまくりに出る構え。しかし、1号艇もインを死守する構え。第1ターンマークが迫る。




「第1ターンマーク、4号艇がまくりに行った! しかし1号艇が抵抗! おっと、4号艇、まくり差しに切り替えた! これは見事な判断!」




「うおおおお! 差したぁぁぁ!」


「見たか! あれが4号艇のターンや!」


「あああああああ!!!」




水面が割れる。4号艇が外から切り込むように差し込んだ。ターンの出口で、わずかに前に出た。




「4号艇、トップに立った! まくり差しが決まった! これは鮮やか!」




スタンドが揺れるような歓声。私の隣の若者が「やったぞ、4号艇!」と叫ぶ。私も思わず串を握った。




「直線で4号艇がリードを広げる! 2番手は1号艇、3番手は3号艇! しかし差は開いている!」




「逃げろ! 逃げ切れぇぇぇ!」


「ターンで流すなよ! 慎重にいけ!」


「ああああ……だめだめだめ……」




第2ターンマーク。4号艇は冷静に回る。ターンの出口で加速し、他艇を引き離す。




「最終周回、4号艇が独走状態! まくり差し一閃、これは優勝にふさわしい走り!」




最後の直線。水面を切り裂く音、モーターの音、スタンドの阿鼻叫喚。




「ゴール! 1着は4号艇! 2着は1号艇! 3着は3号艇!」




「よっしゃああああああ!」


「最高や! 男前ぇ!」


「3着は流せ……」




拍手が広がる。歓声と感嘆が交錯する。勝者の艇が静かに戻ってくる。水面には、勝負の余韻だけが残っていた。

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