順序 よく
どうしても話だけでも聞いて欲しいと親友が泣きつくので、仕方なく訪れた全国チェーンのカフェ。昨日も、この親友の彼氏の方からのお願いとやらをキッパリ断ったところではあるが、やはりそこは俺も男。女性からの頼みだと断りづらいものがある。
「言っとくけど、話聞くだけだからな?」
アイスコーヒーを飲みながら、彼女に念を押す。もちろん、アイスコーヒーは彼女の奢りだ。
「うん、分かってる。とりあえずこれ、見て?」
俺の念押しをサラリと流し、彼女は鞄から一通の手紙を取り出し、テーブルの上に置く。
涼しくなりましたね。
時は流れているようです。
みんなに平等に。
秋の日はつるべ落とし。
こんな諺もありますね。
月と星はより美しく。
暑さ厳しい夏は間もなく終わります。
気の赴くままに。
歩きに出るのも素敵です。
是非いかがでしょうか。
美しい文字で書かれた手紙。
宛先も差出人も書かれていない。
けれどもこれは俺宛てだと、彼女は言った。
「あたしの友達なの。どうしても、あなたに渡して欲しいって」
「どうしても、ねぇ?」
「あ! 『順番を守らない人は好きじゃない』って言ってた」
「順番……」
テーブルに置かれた手紙を手に取り、よく読み込んでみる。普通に読めば、デートの誘いのように読める。
どこの誰とも知らない人からの散歩の誘いなど、受けるつもりは毛頭なかった。だが、それだけではないような気がするのだ。
「順番、ねぇ……」
奥ゆかしい。実に奥ゆかしい文面だ。親友カップルの痴話喧嘩メッセージばかり見せられてきた俺には、目と心の一服の清涼剤のようだ。
もとい。
この中にはきっと、隠された奥ゆかしいメッセージがあるに違いない。見つけろ。見つけろ、俺!
と。
見つけた。
実に奥ゆかしいメッセージだ。柄にもなく、わくわくドキドキしてしまった。
……顔が赤くなっていないだろうか?
まぁいい。彼女にはバレていないようだから。
俺は手帳からメモ用のページを1枚切り取り、持参のペンで返事を書いた。
いいですね。
あなたのご都合はいかがですか。
早いお返事お待ちしてます。
「悪いけどこれ、渡してくれるか」
「オーケー……ふふっ」
彼女は意味ありげに笑って俺を見る。
そんな目で俺を見るな。キミが思っているほど俺は単純じゃないぞ! ただ、こんなにも聡明で奥ゆかしい手紙を書く人がどんな人か、気になっただけだ!
「連絡先は書かなくていいの〜?」
「いい」
からかう様な口調の彼女に若干苛つきながら、残ったアイスコーヒーを飲み干す。
連絡先なんていらないんだよ、今はまだ。
彼女は全く気づいていないようだが、あの手紙は行数の文字がメッセージになっていたんだ。1行目は1番目の文字、2行目は2番目の文字、って具合にな。
すきなひとはいますか
だから俺はこう返したんだ。
いない
な?
連絡先なんていらないだろ?
今は、まだ。
【終】
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