第三話 秒で泣かされた(8×18)
小学校まで迎えに行って一緒に帰るのが俺の日常になった。
最近、付き添いで帰る子も増えてるらしいしな。
千鶴んとこの親も働いてるし、断り切れなかった。
「おっそ! Wi-Fi使えないから、やることないんですけど。どうせヒマなんでしょ。なんで30分も遅れちゃうわけ?」
体操服のままの小学二年になった
何を吸収してるのか、年々俺に対してだけ毒気が増してきている。
「うるせーな。迎えに来ただろ。ありがとうくらい言えないのか?」
「は? 別に頼んでないし。一人で帰れるんですけど?」
鼻息を荒くし、防犯ブザーをチラチラと見せつけてくる千鶴。
「ったく……こっちは時間作って来てやってんだよ」
「来てやってる? なにそれ!」
つい反論してしまった。千鶴の顔が赤くなる。
続きに備えたが、口を尖らせて地面をじっと見てる。
「もういい! 一人で帰る」
スタスタと、大股で歩き出す千鶴。
「な、なあ千鶴……」
今日は買い物したせいで遅れた。早く出なかった俺も悪いけど。
もう一つ、千鶴の母親から頼まれごとを受けていた。
こんなん俺に押し付けるなよな……。
「ついてこないでってば! 千鶴、一人で平気だし! う、運動会だって……べ、別にママ来ないけど、お友達とお昼食べるもん……! もう一人でなんでもできるんだから!」
今年の運動会、千鶴の母親は仕事で来られないらしい。
落ち込んでるから慰めてくれと、無責任なお願いが飛んできたんだ。
どんどん先を歩く千鶴の腕を掴む。
バッグから小さな箱を取り出した。
「これ買ったから遅くなっちまったんだよ!」
「……なにこれ」
「見てわかんだろ、ビデオカメラだよ」
泣きそうになってんなよ。
わかってるよ、親来れないのはショックだってのは。
「お、俺が、見に行くから」
ほんと世話の焼けるガキだ……。
「……これで、ちゃんと撮ってやるよ。……お前の、頑張ってるとこ」
いいやつを買った。おかげでバイト代が全部飛んだけど。
「あ、あれだよ。落ち込むなよ? そんな年もあるだろ。な?」
「……」
千鶴は涙が流れそうになったのに気づいたのか、ごしごしと腕で目をこすった。
「ったく、ガキの運動会にここまでやるとか、アホか俺」
「むっ! 千鶴を撮ってネットとかに上げないでよね! 今そういうのヤバいんだから」
「は、はぁ!? お前の母親に見せるんだよバカ。こんなに楽しかったって!」
言い終わると、千鶴はぴとっと俺にくっついた。
「……ほんとに来てくれるの?」
「まあ、バイト休みだし」
休みもらったんだけどな。
「……あ、ありがと……」
声は小さくてちゃんとは聞こえなかったけど。
袖をぎゅっと掴まれた。
ぽんぽんと、頭に触れてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます