水面と縁
花咲 千代
水面と縁
「先輩、明日の花火大会、行きますか?」
二人しかいない狭い部室に、後輩の声が響く。
私はシャッシャッシャッと茶筅を動かす手を止めた。
後輩が持つ器から、深い抹茶の香りがする。
「花梨ちゃんは行くの?」
「先輩が行くなら。部活以外に居場所なんてないから、一緒に行く人なんて先輩以外にいませんし」
「じゃあ、行こうか」
私が点てたお茶からも抹茶の香りがする。
私にとっては、畳のい草と抹茶の香りが青春の全てで。
先生は今日もいないから、と作法もさして気にせずにお茶を啜った。
「じゃあ、六時半に浴衣着て集合ね」
と言ったのはどちらだったか。
「先輩、花火って、どこから見ても同じ形でしょう?あれって、花火が丸いからなんですって」
「どうしたの?いきなり」
「うーん、なんとなく?先輩なら知ってそうですけど」
川沿いの道は人で溢れている。
大きくもなく、小さくもない地域の花火大会は、浴衣姿のカップルで賑わう夏の風物詩。
水面に映る火の花は、縁結びの効果があるとか。
「私、恋愛とかは良いんです。人と関わるのは苦手だし。だけど、先輩は違うでしょ。茶道部が潰れそうだから、受験期間真っ只中なのに毎日来てくれて。せっかく素敵な彼氏もいたのに、」
「花梨ちゃん」
花火大会開始の放送に、周りの景色が静まっていく。
揺れる水面に映るのは、丸い月。
「私は、ずっと一人で茶道部にいてさ。一人で花火を見てたら次の年に花梨ちゃんが来た。縁結びでできた縁なら、大事にしたいの」
ヒューと遠く響く笛の音と、夜空に咲く大輪の花。
「花火はどこから見ても、花の形。みんな同じ。でも、うちの部活は違う。今時お茶を点てて、和服を着て、作法を学んで。お淑やかなイメージはあるかも知れないけど、ただそれだけの価値」
パァン!と咲いた花火が、水面と二人の顔を照らす。
「他の人から見れば、将来役に立つわけでもないただの伝統文化。それでもね。私にとっては、青春で、ずっとずっと大事なもの。だから、無くしたくないんだよ」
どうか、素敵な縁が結べますように、と水面に揺れる花に願った。
「私は、あの狭い部室が大好きだから。花梨ちゃんもそうでしょ?」
「はい!」
花火はクライマックス。
大きな花束が、夜空に打ち上がる。
「だから、茶道部は私にとって、価値のある、綺麗な綺麗な縁結びの花。欠けるところなんてない、まん丸な。だって、花梨ちゃんに会えたんだもん。私の、初めての友達だよ?」
「私もです!」
最後の一輪が大きく打ち上がる。
願うは、新しい縁を。
「来年、また良い子が入ってくると良いね」
「
キラキラ光って散っていく花火は、鮮やかに放物線を描く。
それが、花梨の目には何よりも美しく見えた。
水面と縁 花咲 千代 @ChiyoHanasaki
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