大学と事件②
事態が鎮静化したのはニュースが報じられてから1週間後だった。
最初の頃は大学の周りに必ず、包囲されていた。このままでは運営にも支障をきたすことも含めて大学側が政府側に対して協力を要請する形で事態の鎮静化に動き始めた。
政府が動き始めてからは早かった。大学の周りには複数人の警察官が取り囲むようにいて、大学の関係者であることを示す学生証があり、顔が一致しないと入れなくなったのだ。
これだけ厳重になったことに対して、大学に通う者たちからは『賛成』の声が多かった。それは大学生活を送る上で安全な方がいいという点もあるが、何よりもこれで葉山優という男が大学関係者以外と接することができなくなった。
そうなれば自分たちだけが葉山優と接することができる。となればもしかしたら自分たちが彼と結ばれる可能性がある。
通う学生にとっては良いことばかりなのだ。多少、大学に入ることが少し面倒くさくなったものの、そんなのはそこまで気にならない。
この世界の女にとって、男を近くで見られるだけでも価値があるのだ。その価値を謳歌するためにも、今回のニュースによって生じたことは結果的に良かったのだ。
―――――――
静かな理事長室にノックの音が響き、ドアが開かれる。
「どうしたの、梓穂」
「お母さん……いえ、理事長」
「あなたがこの部屋に入室してくるなんて珍しいわね」
「うん。家に帰ればいつでもお話ができるから」
「じゃあ、今日はなぜ?」
「理事長は葉山様に関する情報が漏れた理由は何だと考えていますか?」
「理由ね……あるとしたらうちの大学内の人物が外部に漏らしたというところかしらね。一応、大学内に他言無用と通達していたつもりだったのだけど」
ニュースで報じられたということは誰かが『葉山優』という存在が大学に通っていることを漏らしたということだ。そしてそれが誰なのかによっては色んな意味で問題だ。
大学の秘密管理が上手くできていないということだ。いずれ、葉山優の追随をして、男が女性区域の大学に通おうと思った時に今回のような問題が多発すれば、この大学が選択肢から消える可能性が大いにあるのだ。
将来のためにも、現状の問題を解決するためにも今回の問題は根本から解決しなければならないのだ。
「そうです。大学内の誰かが葉山様の情報を漏らした。これは我が大学の信用失墜になる可能性もあります」
双葉梓穂は葉山優と接している時には絶対に見せないような真剣な口調で華に対して訴えかけている。
「葉山様はお優しい方なので、そこまで気にしていませんでしたが、他の男性であれば今回の問題で「もう通わない」という選択肢を取られてしまう可能性もあります。我が大学としても漏らした張本人を見つけない限りは解決とは至りません」
このような事件が何度も起こることがあってはならない。そして双葉梓穂は葉山優に対して恋愛感情のような、それ以上の感情を抱いているのだ。
そんな彼がこのようなことで危険にさらされるようなことが何度も起こるのをただ見ているのは無理だ。葉山優に対してそれだけご執心。
「あなたの意見は分かっています。私としても、この大学の最高責任者の理事長としても今回のことは重く受け止めています。葉山くんが折角、我が大学を選んで通ってくれているのに今回のような事態が引き起こってしまった。そしてその事態を発生されたのはおそらくこの大学の関係者であるのは確実でしょう」
理事長としても葉山優に対して、国に対しても色々と示していかなければならない。葉山優に対しては大学側の安全を。国に対してはこの大学の秘密保全や問題解決力を示さなければさっき双葉梓穂が言ったように信用失墜になりかねない。
これからの大学側の行動がとても重要なのだ。
「今回の一件をしっかりと解決させなければならないのは私も思っているわ。だけど、今の状況ではどういう行動を取るべきか分からないのが正直なところなのよ」
理事長もこれからの行動を悩んでいるのだ。解決に導くために、どんな手段を講じるかを。
「現状、単独犯なのか複数人なのか分からない。それが誰なのかの特定までは至っていないわ。そしてテレビ局に問い合わせたところ守秘義務で教えられないの一点張り。学生なのか教職員なのかすらも分からない。だけど、一つ確かなこととしてテレビ局の問い合わせの対応からして誰からのリークがあったのはほぼ間違いない」
八方塞がりとは言わないまでも、どんな行動を取るべきなのか分からないのだ。この事案に関しては慎重に動く必要はあるものの、あまり時間を掛けるわけにもいかないのだ。
「どちらにしてもこれから葉山くんの情報に関しては私と付き人兼ボディガードのあなた以外には伝えない方がいいわね。信用している人たちもいますが、その人たちが完全に犯人じゃないという証拠もない以上は無暗に情報を共有するべきではないという考えです」
「それはお母さんの言う通りかもしれない」
「ええ。どちらにしても早急に解決するために私も知恵を絞るわ。そして次に情報漏洩がないように私を含め、あなたも気を引き締めなさい」
「わかりました、理事長」
そして話がひと段落したところで理事長から言葉が漏れる。
「それにしてもあなたがそんな風に私に言うとはね…」
「…どうしたの?」
「今まで梓穂から何か私に対して要望を言ったことはなかったわ。自分の意思はあるけど、それを言葉に出して伝えるのがあまり得意ではなかった。それなのに、今回は私の理事長室にまで足を運んで進言しに来たところから考えるに、葉山くんのことをずいぶん気に入っているのね」
「……そうだね。私は葉山様に心酔しています。あの方の側に居たいと思えるぐらいには葉山様のことを想っています」
その言葉に理事長は一瞬、驚いた顔をしたものの、すぐにいつもの表情に戻って笑みを浮かべた。
「そう。あなたがそうしたいのならそうすればいい。葉山くんは色んな意味で特殊な人なので、もしあなたが気に入られたら結婚なども視野に入るかもしれないわ」
双葉梓穂は母である理事長の言葉に顔を赤らめる。
「け、けっこんなんて……///」
「いいじゃない。女にとって男に愛されて結婚するなんて御伽噺のようなもの。そんな御伽噺がもしかしたら本当になるかもしれない可能性を秘めているだけでもすごいことなのよ」
この世界の価値観では絶対に愛されて結婚をするなんてあり得ない。まず、結婚という制度が使われることがほとんどないのだから。
「私の学生時代はそのような男性はいなかったわ。でも、あなたにはその方が近くにいるのだから」
「お母さん……」
理事長も母親として娘がここまで心酔できる相手を見つけたことは嬉しいことなのだ。あんまり話すことが得意じゃない娘が男とそれなりに話せている。それだけで母親としては娘の成長を感じずにはいられない。
「今日、私に進言しに来たように少しずつ自分の考えていることや気持ちを相手に伝えられるようになれば、いずれは……」
そんな親子の会話が理事長室では繰り広げられていた。
――――
大学関係者以外の女たちが諦めることはない。確かに頭を働かせず、感情の赴くままに行動することは避けることはなくなったが、だからといって行動しないわけではない。
ただ表立って動くことを止めただけ。
面と向かって会う手段がないのであれば、それ以外の方法を探せばいい。ネット社会の現代であれば色んな手段がある。
女性区域に来るような男であれば、ネットで女性とコミュニケーションを取ろうとしていてもおかしくない。
そんな一抹の希望に賭けて、今日も彼女たちはネットの海を渡っていくのである。
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