華鬼の謳
瀬田 大貴
第一章 爆譚
第1話 地獄の底で君を呼ぶ
――八年前、僕は故郷を地獄に沈めた。
多くの人を殺し、微塵にし、焼き尽くした。
もし君がそんな罪を犯したとしたら、どう償う?
大抵の人は言うだろう。
「死んで詫びろ」と。
でも、僕はその“死”すら許されていない。
“半分鬼”だからだ。
骨が折れても歩けるし、焼かれても跡ひとつ残らない。
医者いらず。治療代もなし。
お得だろうか?
――いや、違う。
これは呪いだ。
人の血を啜って生き続ける。
僕が呼んだ《華》が、すべてを焼く。
僕の願いを叶えたと同時に、万象一切を劫火に沈めた花びら。
そのせいで僕は母を死なせ、今も誰かを死なせ続けている。
だから僕は、あの日を忘れない。
故郷を吹き飛ばした、あの夜を。
―――
――その日、五歳の
花火が夜を照らし、風鈴が揺れ、櫓を囲む祭囃子に人々が笑っていた。
だけど僕だけは、櫓の上で血に溺れていた。
体は熱に焼かれ、両手は縛られ、足には釘。
暴れたくても逃げられない。
男の振るう
その音さえ祭りの音に溶けていく。
水飴を舐める大人や子供が、笑いながら僕を見る。
どうして笑っていられるんだ。何を喜んでいるんだ。
でもまだ信じていた。
誰かが助けに来てくれると。
でも誰も助けてくれなかった。
僕が何をした?
どうして誰も助けてくれない?
「とーちゃん……! たすけて……っ」
僕の願いはそれだけだった。
その時。
風が止み、大地が揺れ――。
――空が、燃えた。
天を焦がす炎の巨木が地の底から現れ、雲を貫き、紅蓮の花びらが空を覆う。
笞を持つ男が動けず、子供たちは花びらを追いかけ笑い合う。
一人の少女がそれを受け止めた瞬間。
世界が、白く染まった。
街は光の津波に呑まれ、祭りの灯は粉々に砕け散った。
気づけば僕は地に倒れていた。
体は自由だが、周囲はすべて消えていた。
瓦礫に刺さった風車がカラカラと回り、破れた提灯が燃え尽きていく。
世界は焼け野原だった。
「かーちゃん……」
返事はない。
街は灰と化したのに、僕の体だけが瞬く間に再生していく。
見上げた空は紅蓮の海だった。
何百枚もの花びらが地平を焼き尽くすその光景。
僕がこの世に解き放ったのだ。
――これが、僕の罪。
だからこうして償おう。
この華びらを全て消し去るその時まで、僕は生き続けてやる。
血を啜ってでも、何度でも立ち上がる。
そして全てが終わった時、初めて死ぬことを許してやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます