僕のお母ちゃんへ
紅緒
僕のお母ちゃんへ
僕のお母ちゃんは優しい。
3人兄弟だった僕達だけど、僕以外の兄弟はすぐにどこかへ行っていなくなってしまった。
公園にいた僕達を連れ帰ったおばさんが言うには、2人は『新しいおウチ』に行ってもう戻って来ないそうだ。
2回、僕も他の兄弟達がそうだったように100円均一で買ったプラスチックの容器に入れられて、その上から洗濯ネットを被せられて外へ行った事がある。
でも、2回とも僕はおばさんの家に帰って来た。
僕にご飯をくれるおばさんは、困った笑顔で「早く決まれば良いねえ」と言って僕を撫でた。
おばさんの家には他にも猫がいて、僕は狭い囲いから出してもらえなかった。おばさんの家で僕を育てる事は難しいようだったし、僕も他の大人の猫達が怖かったから嫌だった。
そんな時、3度目のお出かけをする事になった。
「今度こそ、良い人だったらいいね」
と、おばさんは言った。僕もそう思った。
電車を乗り継いで知らない町を歩くと、夜道を迎えに来てくれた人がいた。
それが、僕のお母ちゃんだ。
「遠いところ、わざわざありがとうございます」
そう言いながら、その人はおばさんに抱えられた僕を覗き込み「うわあ、小さいねえ!」と声を上げた。
僕が「みゃう」と返事をすると、その人はにこにこと嬉しそうに笑って「いらっしゃい。今日からよろしくね」と言ってくれた。
その日から、僕にとってその人が『お母ちゃん』になった。
お母ちゃんはご飯をくれて、トイレの世話をしてくれて、それに何より、僕に名前を付けてくれた。
お母ちゃんは、たくさん名前を呼んで撫でてくれた。
お母ちゃんが撫でてくれたり抱っこしてくれると、僕の喉は勝手にゴロゴロ鳴る。そうすると、お母ちゃんは嬉しそうに笑ってまた撫でてくれる。
お母ちゃんが言うには、他の兄弟達も新しいおウチで新しい家族と幸せに暮らしているそうだ。
でも、僕は僕のお母ちゃんが1番だと思う。
他の兄弟達に会ったら自慢してやりたい。怒ると怖いけど、僕のお母ちゃんはとっても優しくて僕を愛してくれるんだよって。
「みゃあ」
お母ちゃんに振り返ってほしくて声を上げる。
すると、お母ちゃんはやっぱりちゃんと振り返って、僕の名前を呼び「おいで」と笑ってくれるんだ。
お母ちゃん、僕のお母ちゃんになってくれてありがとう。大好きだよ。
僕のお母ちゃんへ 紅緒 @nene-fluorite
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