星の名を持つもの
天坂 透真
第1話夜空に託した願い
「なぜ人は、夜空を見上げるのか知ってる?」
夏の終わり、縁側に腰掛けていた僕に、祖母はふいに問いかけた。
軒先には風鈴が揺れ、チリンと儚い音が夜気に溶けていく。
僕は首を傾げただけで答えられなかった。
「星はね、人の願いを受け取るのよ。願いが重なった星は光を増して、流れていく。
そして地に落ち、やがて人に生まれ変わるんだ」
祖母は夜空を見上げていた。
白髪が月明かりに透け、背中は少し丸かったけれど、その声は不思議と力強かった。
僕は信じてみたくなった。
その夜、本当に流れ星を見た。
胸が熱くなり、思わず「強くなりたい」と願った。
一瞬の閃光は夜の闇に消えたが、その余韻だけが心に残った。
——時は流れ、十数年後。
道着の帯は擦り切れ、色褪せている。
負けては受け身を取り、畳に転がりながらも立ち上がった。
折れそうになるたび、思い出すのは祖母の声だった。
「星は願いを叶える」
だから、立ち止まることはなかった。
今、畳の上で相手と向き合う。
観客のざわめきが遠のき、心臓の鼓動だけが耳に響く。
あの夜空を見上げたときのように、視界が澄んでいく。
「俺の名は——光星」
祖母がくれた名を口の中でそっと確かめる。
それは願いの証であり、僕のすべてだった。
礼を交わす。
踏み込んだ一歩は、夜空を駆ける流星のようにまっすぐだった。
——星は確かに、願いを叶えてくれる。
星の名を持つもの 天坂 透真 @eiji14
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