短編SF小説 ‐シグナル‐

ジュラシックゴジラ

シグナル

- 第一章:耳 -

2039年、人類は初めて「応答する宇宙」を見た。


それは、太陽系外の方向から届いた奇妙な信号だった。

火星軌道上の観測ステーションルキフェルIVが、通常のパルサーノイズと異なる数学的に完璧なパターンを検知したのが最初だ。


それはただのビープ音ではなかった。


それは音楽だった。

しかも、バッハのフーガのような構造を持っていた。

一度聴いた者の耳から、決して離れない旋律だった。


- 第二章:ノイズの中の声 -

シグナル解析官のアマリ・カセは、それを最初に“聞いた”人間の一人だった。


「これは…ただの情報じゃない。意思よ」


そう言った彼女の瞳は、恐怖と陶酔が混じった色をしていた。


ルキフェルIVのクルーは6人。

そしてそのうちの3人が、解析を進めるうちに奇妙な症状を訴え始めた。


睡眠中に“音”が聞こえる


記憶が曖昧になる


他人の思考が、自分の頭に流れ込んでくる感覚


それでもアマリは言った。


「これは言葉じゃない。言語の根源よ。私たちが“名前”を持つ前の、原初の意思伝達」


- 第三章:沈黙の回廊 -

やがて、観測ステーション内で**“事故”**が起きた。


通信技術主任のファルクナーが、無断でメイン通信機を再送信モードに切り替えた。

シグナルを――今度はこちらから送信したのだ。


「聞こえるか?応答せよ。我々は地球の生命体だ」


それから、15分の沈黙。

誰もが息を呑んだ。


そして――返事があった。


ただし、それは音ではなかった。

代わりに、ステーション内の電磁センサーが飽和し、全員の視界に「光の残像」が焼きついた。

それは何かの記号列のようだった。まるで脳の内部に直接描かれたマンダラ。


- 最終章:応答者(リスポンダー) -

数日後、地球との連絡はすべて遮断された。


火星の天文衛星が記録した映像には、ルキフェルIVの周囲に現れた奇妙な幾何学構造が映っていた。

人工物。だが、知覚すら困難なほど、非ユークリッド的。


アマリは日誌に最後の記録を残した。


「私たちは、孤独ではなかった。

でも、彼らは“友”なのか、それとも――

聞く耳を持った捕食者なのか、それはまだわからない」


そして、ステーションのシステムは最後に1つの信号を発信した。


それは、最初に送られてきた旋律と完全に一致する音列だった。


それだけが、地球に届いた最後の「シグナル」。


【終章のあとに】

「彼ら」は今も応答を待っている。

あるいは、次の“聞く者”が生まれるのを。


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