最強の鈍感を意識させるために頑張る歌姫
普通
長谷川冷夏はライブに誘う
この学校で彼女の名前を知らない生徒はいないと断言できてしまうほどに。綺麗なショートカットの黒髪、目鼻立ちも整っている、美少女。勉学や運動など何を取っても素晴らしい成績を残すのだから非の打ちどころがない生徒というのはこういう人のことを言うのだと思う。
そして、彼女は軽音楽部としても活動していて、その歌声は昨年の文化祭で初めてお披露目されたのだが、そこから多くの生徒が彼女の虜だ。他にも長谷川さんのファンクラブがあるぐらいですし。自分とは本当に天と地の差があって、住んでいる世界が違うのだと思わされる。
そしてそんな風に一人語りのようなことをしているのが、
僕は世間一般の男子高生の日常を謳歌しているだけで、特段変わったことはない。長谷川さんは毎日多くの人と話したりして、とても大変そうに映るので僕としては今の自分の日常がそれなりに気に入っている。
僕のことはどうでもよくて、長谷川さんの話に戻る。
長谷川さんの人気は本当にすごくて、僕の友人の中にも星街さんのところのファンクラブに入っているという人もいる。それほどまでに人気がある人はこの学校には彼女を含めて三人しかいない。皆の憧れの的であり、注目の的。
なんでこんな話をしたのかと言えば、その張本人こと長谷川冷夏さんが僕の目の前にいるから。
場所は校舎裏。
僕がこんなところにいるのかは簡単でそれはゴミ捨ての為だ。僕が通っている高校のゴミ捨て場は校舎裏にあるのだ。掃除を終えて、このゴミ捨てが終われば今日の掃除当番も終わりなのだ。
「は、長谷川さん、一つ聞いても良いですか?」
「な、なに?」
「なんで僕は長谷川さんに壁ドンされているのですか?」
そうなのだ。僕は長谷川さんに壁ドンをされている。長谷川さんのファンの人であれば歓喜して喜ぶようなシチュエーションなのだろうが、僕としては疑問しかない。
「……お、お願いをしたくて」
「お願いですか?」
「う、うん…。次のライブがあるんだけどさ…」
「ライブ?」
「うん。軽音楽部でライブをやるんだよ。それでそのライブに西風舘くんが来てくれたり…しないかなぁ…なんて」
なぜか、長谷川さんの顔が少し赤らんでいるように見える。もしかして熱でもあるのかな。
「…長谷川さん、顔赤いですよ」
リンゴのように赤く染まっているのでさすがに心配になってくる。それもさっきからどんどん赤くなっている気がしますし。
「熱ならすぐに帰った方が良いですよ。あんまり体調が悪い日に無理をすると後でもっとひどくなるので」
「……あ、ああ、だいじょうぶ…」
「そうですか?それならいいですけど…」
「そ、それで…ライブには来てくれたりしますか?」
「はい、行きますよ。長谷川さんが自ら誘ってくれたんですからね」
多分、長谷川さんも一人でも多くの人に見に来て欲しいから色々な人に声を掛けているんだろうな。僕は長谷川さんの歌声を聞いたことが今まで一度もない。色々な機会があったんだけど、そういう時に限って外せない予定が入ってちゃったりしていた。
「ほ、ほんと!?」
「はい……折角のお誘いなので…」
「そっか……じ、じゃあ…ま、またあしたね」
「うん。また明日」
そして長谷川さんは駆け足で去っていった。その後ろ姿を見ながら、大変だなぁと心の中で思った。
この後もライブの誘いに行くんだろうなぁと。
でも、長谷川さんぐらいの人気者なんだから別に呼びかけなんてやんなくても人が来そうなものだけどな。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
長谷川さんの歌声が聞こえるのだからとても楽しみだ。
そんなことを思いながら僕は教室に戻るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます