君が一番
この間会った女性がね、と朝食を食べながら夫が言った。
ああ、ミシェランの星付きレストランね。どうだったの?
食事もワインも予想以上だった。
ところが同席したその人がね、まあよく食べるわ飲むわ、その上食事のマナーがひどいんだよ。俺、食欲失っちゃってさ。よくそんなで結婚出来たものだと思ったよ。子どもの躾とかどうなんだろうな。
こういう夫の話がとても苦手だ。まるで暗に君は違うだろう、俺の妻は出来た女性でいつもきちんとしていなければならないというプレッシャーを与え、居心地が悪くなった。
私はひねくれているのかしら、と心の中でつぶやいく。
何故かその女性が気の毒に思えて、お仕事は出来る人なのかもよ、とついその人を庇う。
近年この手の話が多いなと思う。
大抵は取り引き先での事だと言う。接待の席で携帯を手放さない無礼な女性のクライアントがいてムッとしたのだそうだ。懐石料理の店に行ったんだけど、ろくに話も聞かずに携帯を盗み見てた。呆れたよ。
君は食事の時は携帯を触らないようにと、僕や子どもたちにも厳しいだろう?あれって相手にされたら嫌なものなんだね。
また、他の女性を下げて私を持ち上げる。
その方も仕事の案件で仕方がなかったのかもね、とまたその女性の方に優しい言葉をかけたくなった。
夫はいつも身なりをきちんとしている。長身で見かけも悪くないし、外面がいいので女性には人気がある。近年はただ何もかも完璧すぎて、いいえ、完璧であることを強いられて疲れ切っていた。
大学時代の女友達がしばらくぶりに会いたいと言って来たので一緒に食事をする事になった。実はもうすぐ離婚するのだと彼女は涙ぐんだ。夫が隠れてマッチングアプリに登録していて何人もの女性と関係していた事が原因だと言った。婚外恋愛だか何だか知らないけど、最近そういうサイトがいくつかあるのよねと話してくれた。
それ以来そのマッチングアプリの事が何故かチラついた。罪悪感と好奇心とが戦っている。ちょっと覗いてみるだけでも。
驚くほど簡単に登録できてしまい、しかも何人もの男性から声をかけられるのは悪い気がしなかった。
数人の男性と食事をしたりお酒を飲んだりもした。どうかしてる、と思いつつも安らげる場所を探した。
ただ、私なんかのどこがよくて誘ってくださったんですか?という質問に誰もが皆その上品で、良妻賢母的なところですかね。そういう人タイプなんです。と返事をした。
そのサイトに登録して数人の男性に会っていた事が夫に知れてしまった。実は夫も登録していて私に似たプロフィールを見つけて我が目を疑ったと言った。
夫はため息をつきながら、君のような女性は他にはいなかった。取引先だと言っていたのは全てサイトで知り合った女性たちだったと白状した。
私がどう思ったかは言わなかった。皆あなたと同じでがっかりしたなんて。
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