コーヒータイム
夜虹
第1話
「私さぁ、生育環境が厳しくてね、だからかな、仕事に一生懸命だった。仕事は頑張ったら成果が見えることが多いじゃん?
そりゃあ理不尽に怒られることもあったけど、反骨精神で頑張って見返したり。」
「周りに相談されたら、自分の仕事を差し置いてでも問題を解決して感謝されたりとかさ。
そういうのが気持ちよくて。だから仕事にどっぷりハマってたんだよね。」
「今から思えば、自己犠牲しすぎてて痛いよね。
貴重な20代を仕事に捧げてさ。事務職OLの私の仕事なんて大したことないのにね。バカすぎて笑える。」
私は一気に吐き出すように言ってから
彼女を見た。
彼女は昔よりおしゃべりな私に少し戸惑っているように見えた。
「そうだったんだ。全然気がつかなかったよ。
なんか随分雰囲気変わったなって思ったんだよね。」
彼女は、いったいどうやって綺麗になったの?と言いたげな眼差しを向けてくる。
「え?そう? いい感じに年取った?」
私は、彼女が何かを発する前にそう言いながら軽く髪をかき上げ、彼女の顔をチラッと見る。
会うのはおおよそ10年ぶりだろうか。
元会社の同期の彼女は、年を重ねても体型だってちっとも変わらないし、肌もしっとり艶々だ。あの頃そっくりな紺色の水玉模様のワンピースを華麗に着こなしている。
でも、私も結構肌の張りがあるし、見知らぬ人が「姉ちゃん、運動不足やで」と笑いながらわざわざ教えてくれるような、コンプレックスだった足も、ネット動画のトレーニングの甲斐あってか、ひざ丈スカートが似合うくらいには引き締まっている。
「まぁ、いろいろあったけど、今が一番幸せなんだよね。」
私はさらりと言って、テーブルの上のコーヒーをすする。私の好みからすれば少々ぬるかったが、ずっと胸に温めていたエピソードのプロローグを話せたことで少し熱した私の心には、むしろそれぐらいが心地よかった。
『さぁ、コーヒータイムが終わったから、掃除機をかけるとするか!』
私は今では元旦にSNSで挨拶する程度の関係性になっている
元同期との会話を済ませ、日常生活へ戻るために一人席を立つ。
脳内に召喚した彼女のお陰で、散らかった頭の中も整理整頓されていく。
美人で異性受けもいい彼女に劣等感を抱くこともあったが、苦しいときに苦しいことにも気付かずに平然を装い、誰にも助けてと言えない私を助けてくれた彼女。
時には、更に別の同期が登場し、複数人で会話をすることもある。
久しぶりなのに、自然と会話が弾む。私の生い立ちを話すと驚きの表情。ときには誰かが涙することもある。笑いも交えたいがこれが案外難しい。ぴったりはまるエピソードと落ちはまだ思い浮かばないが、笑っている彼女たちの表情は鮮明だ。
彼女たちに実際に会うことがあれば、
お礼を言おうと思う。
「いつもありがとう」
いや、やめておこう。
明日はコーヒー片手に何を話そうか。
コーヒータイム 夜虹 @agomi
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