ゆっくりと沈む夕陽を眺めるような、胸の奥に残る物語でした。
美しい言葉遣いのなかに、少女のお紗江が持つ純粋さと無垢さが丁寧に描かれていて、読み進めるほどにその儚さに心がひかれていきます。
特に、庭に咲く「るこうそう」の扱いが印象的で、赤い花がひとつの象徴となり、物語全体に静かな余韻を与えていました。
日常の些細な所作や感情の触れ方の積み重ねが、読者にそっと寄り添ってくるようです。
厳しさが漂う世界の中で、視線だけはどこまでも澄んでいて、最後までそれが壊されないのが逆に痛ましく、美しく感じられました。
静かな悲しさの中にも、確かに咲いた小さな赤い花の記憶が残るような物語です。
静謐な時代短編を好む方には、そっと勧めたくなる一作でした。