ネルトカタコルンという生態【不思議?】

「おばあちゃん、あのキラキラしてるの、なあに?」


 夜空を見上げた孫が、指で星をつつくように問いかける。

 老女はやわらかく目を細め、声を落として答えた。


「あれはね、かに座。あっちはしし座。そして……あの並びが、ネルトカタコルン座だよ」


「ネルトカタコルン?」

 孫は小首をかしげて、まるでお菓子の名前を聞いたみたいに繰り返す。


「そうさ。夜の妖精の名前なんだ。いるのかいないのか、誰も分からない。でもね、ずっと昔から語られてきたのさ」


「妖精?どんなの?」


 おばあちゃんは少しだけ間を置いて、声をひそめる。


「ネルトカタコルンはねぇ、夜になるとひょっこり現れて、眠っている人の肩に、ちょこんと座るんだ。小さなぬいぐるみみたいでね。透明なのに、星明かりがあたるとふわっと光る。肩にのったとき、羽みたいな耳がふるふる震えるんだよ」


 孫は目を輝かせ、手を合わせた。

「わぁ……かわいい!」


「かわいいとも。ただね、乗られた人はぐっすり眠れるけれど、朝になると肩が重くなっちゃう。昔の人は“肩こりはネルトカタコルンが遊びに来た証拠だ”って言ったんだよ」


 孫は少し表情を曇らせる。

「……でもさ。暗い中で、肩に何かのってたら……ちょっと、こわいかも」


 おばあちゃんはくすりと笑った。


「そう思う子もいたのかもしれないねぇ。だから、夜中にちらっと影を見た子どもは、びっくりして布団にもぐりこんだって話もあるよ。でもね、悪さをするわけじゃない。肩でゆらゆら揺れながら、ただ人がぐっすり眠れるように見守ってるんだ」


 孫は胸をなでおろし、ほっと息をついた。

「じゃあ……やさしい妖精なんだね」


「そうさ。眠る幸せを運んでくれる。でもね、星座があるのは理由がある。あの星たちは“よく眠るのは幸せ。でも肩をいたわることも忘れちゃいけないよ”って教えてくれてるんだ」


 孫は肩を押さえて、にこにこと笑った。

「じゃあ明日の朝、肩がこってたら……」


「ネルトカタコルンが遊びに来た証拠だねぇ」


 ふたりは声を合わせて笑った。

 夜空の星々は静かに瞬き、その奥で小さな妖精が本当に手を振っているように見えた。

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