#24 錬金術
夢見亭の朝は、ミーティングから始まった。
店長がホワイトボードの前で腕を組み、メイドたちが円卓に集まっている。
「配信、ひと通り全員やってみたけど……向き不向き、あるな」
店長の言葉に、みんなが頷く。
こまちは「コメント拾うの楽しかったです」と笑い、サキは「緊張したけど、意外といけた」と言う。
モモは「お客さんの反応が嬉しかった」と微笑み、ひがちーは「もっと喋っていい?」と元気に手を挙げた。
「今後は、向いてるメンバーや、配信をやりたい人を中心にやっていこうと思う。
それ以外のメンバーは、配信メンバーと一緒に何かやるときに映る感じで」
たぬまりは、静かに聞いていた。
自分が映るとコメント欄は盛り上がるが、本人はコメントを見ないし、自分から何かすることもレア。
進行役には向いていないと判断される。
たぬまりは、積極的にやりたいわけではない。
動画には、見せ場があれば編集で加えられる。それくらいがちょうどいい。
ログイン後、今日のたぬまりは店内シフトもなく、完全に自由行動だった。
とはいえ、店内で寝ていると怒られるので、外へ。
「さて、どうしようか……クラフト、探すか?」
ユメノネの街を歩きながら、たぬまりは考える。
何かやってみたい気持ちはある。
でも、何が向いているのかは分からない。
気づけば、無意識に足が向いていたのは——
夜の遊戯室。
「ここはいい……」
たぬまりは、ふかふかのソファに腰を下ろす。
照明は落ち着いていて、空気は甘く、飲み物はすぐに出てくる。
チップが無限に増えて、アイテムがもらえる。
至れり尽くせりの空間だった。
そのとき——
魔女のチョーカー《スターリンク》が、ふるりと揺れた。
存在を主張するように、淡く光る。
「……そういえば居たな」
キンボル。
すっかり忘れていたし、名前すら付けていなかった。
今は金のボールじゃないからな……黄金?ゴールド?輝く……ルミナス!……はちょっと仰々しいか。じゃあ、ゴールドとルミナスから取って……『ルル』にしよう
「今日からお前はルルだよ」
そう言うと、チョーカーがふわりと光った。
不満はなさそうだった。
しかし、ルルはまだ主張してくる。
というか、ちょっと引っ張られている。
「……仕方ない。言うこと聞いてやるか」
たぬまりは立ち上がり、ルルに導かれるまま歩く。
たどり着いたのは、一台のスロットの前。
「この台で遊べってこと?」
スロットは初めてだったが、この間の余りチップが少しある。
とりあえず、やってみることに。
抽選の派手な演出が入り——当たった。
ボーナスタイムに突入し、チップの排出が止まらない。
コイツ……!当たる台が分かるってことなの!?
ルルは、チョーカーから飛び出してチップがたっぷり入った箱の上で満足げに光っている。
当たりすぎて、逆に怖い。
「……もう飽きた」
たぬまりは、隣の台の人に声をかける。
「あの、スロットもうやめようかと思うんで、良かったらこっちの台打ちません?」
「いいの!?まだ出てるじゃん!」
「いいんです。他のこともやりたいし」
台を譲ると、ルルも満足したように静かにチョーカーへ戻った。
「チップの換金って……できるんだよね。換金しちゃおうかな」
今日は、やりたいことを探して、クラフトに挑戦するつもりだった。
なのに、なぜかスロットでチップを量産している。
「……なんでこうなった?」
でも、プラスに考えよう。
金を生み出している。これも立派なクラフトなのでは?
「思考も収支もプラス!まさしく、無から金を生み出す錬金術師!」
うむうむ。もうそれでいいや。
通りすがりに、ツッコミ不在の空気を感じた影猫に猫パンチされた。
「いてっ」
たぬまりは、帽子を押さえながら笑った。
---
おまけの隣の人。
「えっ、いいの!?まだ出てるじゃん!」
たぬまりがスロット台を譲ると、隣のプレイヤーは目を丸くして座り直した。
レバーを引いた瞬間、画面がまばゆく光る演出が入り、チップがジャリンジャリン流れ出す。
「うわっ、なにこれ!?止まらない!止まらないんだけど!?」
チップの排出音が遊戯室に響き渡る。
プレイヤーは笑いながら椅子にしがみつき、目をキラキラさせて叫んだ。
「ちょっと待って、これヤバすぎる!誰かに見せたい!いや、見せるしかない!」
慌ててメニューを開き、フレンドリストをスクロール。
「……いた!」と声を上げて、フレンドの名前を選択し、ボイスチャットを開始する。
「おい!今すぐログインして!ユメノネの遊戯室!この間一緒に行った!スロット!やばい台座ってる!チップが止まらない!メイドさんに台譲ってもらったの!マジで金が湧いてる!」
通話の向こうから「え、何?また誇張してるでしょ?調子に乗って負けても金は貸さないぞ……ん、メイド?」という声が聞こえるが、プレイヤーは興奮しすぎて聞いていない。
「欲しいアイテムある!?今なら何でも買える!いや、買わせて!このチップ、使い切れないって!家具でも装備でも、なんならペットでもいい!言って!」
チップの箱はすでに二段目に突入していた。
画面の演出は止まる気配がなく、周囲のプレイヤーもちらちらと視線を送ってくる。
「ニャハハハハ!笑いすぎて腹痛い!これ、夢じゃないよね!?隣に座ってたメイドちゃん、神すぎる……!まじ女神!!」
たぬまりは少し離れた場所から、ルルと一緒にその様子を眺めていた。
ルルは満足げに光っている。
たぬまりは、そっと帽子を押さえて呟いた。
「……やっぱり、これも錬金術だな」
遊戯室の片隅で、静かに“金を生み出す魔女”がひとり、満足げに頷いていた。
その背後で、チップの嵐に狂喜乱舞するプレイヤーの声が、しばらく止むことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます