黄昏の恋は宵闇に踊る

雪村灯里

#1 ジャック・オー・ランタンの呪い

 私には呪いが掛かっている。


 それは、みんなの顔がジャック・オー・ランタンに見える呪い。


 そう、ハロウィンでよく見る


 老若男女、人類みなカボチャ。

 こんな事になったのは、この男のせいだ!



美月みつき、楽しんでる?」



 コイツは幼稚園からの幼馴染・悠斗ゆうと17歳。


 同い年で、私よりカボチャ1つ分背が高い。クールな目元のジャック・オー・ランタンだ。


 この呪いは時をさかのぼる。小5の学芸会、準主役に選ばれた悠斗が、よりにもよって私をヒロインに指名したのだ。


 ヒロイン……と言ってもカチカチ山のお婆さんだけど……。



 先生、チョイス渋過ぎん??



 私は極度の緊張しいだ。人の視線が怖い。教室で黒板の前に立った時ですら、言葉が上手く発せないのに。


 悠斗の相手役なんて!……木Aモブをやらせてよ!


 しかし、あれよあれよと話は進み、当日に。舞台袖で震えていた私は願った。



 ――みんなカボチャになれ!



 それが叶って、6年も尾を引いているのだ。


 もちろん苦労した。カボチャの色や形、細かな傷で個人を見分けている。表情も分からないので、声や仕草で喜怒哀楽を読み取った。


 カボチャ鑑定人と化した私は、眼光鋭く相手を観察し、他人の視線に動じなくなった。嫌味も通じない私を、人はこう呼ぶ。



鉄の処女アイアンメイデン』と……。



 花も恥じらう乙女にヒドイ。私だって年頃のJKだ。恋が気になる。

 恋愛小説を読んでドキドキするけど……本から顔を上げると、みんなカボチャ。


 出来るかな? 恋。


 今宵は真のハロウィンパーティー。みんな思い思いの仮装をしてカラオケを楽しんでいる。私の隣に悠斗が座ったので、先程の問に答えた。



「ハロウィン感は無いけど、楽しいよ」



 悠斗は私の呪いを信じてくれる唯一の人物だ。



「そう? 悩んでるみたいだけど」



 さすが幼馴染、鋭い。鉄の処女の表情を読むなんて。


「バレた?……この先、私どうなるんだろうって。恋も出来ずにこのまま1人なのかな? ジャック・オー・ランタンの伝説みたいに、天国にも地獄にも行けないで1人なのかなって」


 私はハッとした。天国や地獄だなんて、大げさな!――『なーんて、ごめん!』と、言おうとした時だった。


「天国にも地獄にも行けなくても……俺はずっと美月の傍にいるよ」



 悠斗、それって……



 心の底から、願ってしまった。彼が今どんな顔をしているのか。どんな目で私を見ているのか知りたい。



 急に悠斗が慌て出す。



「どうした? 美月!! 顔真っ赤だぞ!?」


「だって……悠斗が……カボチャじゃないんだもん……」


 そんな真剣な視線で射抜かれたから……とけてしまった。

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