【短編】お前誰やねん

　お前、誰やねん。

　さっきからずーーとおるけどさ、顔見せぇ。

　お前、どえらいスーツのくせに一言も喋らずによぉここにおるなぁ。

　俺の……友達？もいっとったで。あいつ、誰やろなーって。

　俺も分からんって返したわ。だって、中学の時にいた顔に見覚えなかったんもん。

　で、お前、誰やねん。名をなのれっちゅうてんねん。

　なんで、そんなにぼーーとしてられるのか、意味わからん。

　なぁ、おいっ！　てめぇ、このやろう！

　もうあったまきた！　殴ったる！

　無理やりにでもこの同窓会から出させてやるから覚悟しぃやっ！

　おま、止めんな！　今からこいつを殴って追い出すねん！　邪魔すなっ！

　この、この、おらぁっ！

　ぶっ……へへへ、いいパンチ持っとるやないか。

　ぶっ殺したる！　おらっ！　おらっ！　おらっ……。

　はぁはぁ……ちょっと休憩や。

　お前、誰や。こんなパンチを持っているなんて世の中探してもそんなにおれんぞ。

　おい、なんで喋らんねん！

　なんで、なんで……ん？　なんや？

　おう、そんなボソボソ喋ってないで、もっとおおきな声で……なに？

『お前、俺のこと見えんの』？

　……あ。

　＊

「あれ、トシタのやつ、どこに行ったんだ？」

「さぁ？　廊下で独り言行っているのを見かけたっきりだったよ」

「あいつ、酒癖悪いからなぁ。どこかに連れて行かれたんじゃないの？」

「休憩室とか？」

「あるいは……お化けに」

「お化け？　なんでお化けが出てくるんだよ」

「知ってるか？　この会場で結婚式を開いたらしんだけど、新婦の元恋人が出てきて奪われちゃったんだって」

「えぇっ？！　それで、新郎は？」

「ショックのあまり、会場のビルから飛び降りたらしいよ」

「うわぁ、きみわるい……でも、トシヤはそういうのを信じないタイプだろ」

「まぁ、そうだな」

「で、どんな新郎だったの？」

「うーんと……元プロボクサーだったかな」