夜風に乗って

赤城ハル

夜風に乗って

 頬に何かが触れて、俺は目を覚ました。

 そして梅の匂いを感じて振り向くと窓が開いていた。

 頬に触れたのは夜風だった。

「あら、起こしちゃった?」

 窓際の文机を椅子代わりにして女が座っている。

 電灯も点けず、白の寝巻きに長い黒髪を垂らし、窓枠に左肘をついて頬杖をついている。

 今日は満月で窓からの月明かりが女を美しく照らす。

 俺が起き上がると女は左手を動かし窓に網戸をかける。

 俺は窓枠に飛び乗り、網戸を嗅ぐ。

 そして爪で突っつく。

「こら、駄目よ。破けちゃうじゃない」

 女は俺を抱え、膝の上に下ろす。

「ニャー」

 俺が鳴くと女は俺を撫でる。女の手は頭から背へと流れる。俺は目を瞑り、何度も優しく撫でられる。時折、首や腹にも女の手が伸びる。

「梅が咲いたね」

 女の言葉が頭上から降る。

 確かに2月の梅の匂いが網戸から入る。

 俺は網戸へと顔を向ける。

 夜はもう明け始め、空は青い。

 青い世界に梅の木の影が見える。

「もう一回寝ようか」

 女は俺を抱き上げて、布団に向かう。

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夜風に乗って 赤城ハル @akagi-haru

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