第2話

 二宮との出会いは……冬だ。年を越せば高校受験を迎える、寒い十二月だった。公園を抜けるとき、高浜は倒れた白い犬を抱き上げた。息も絶え絶えで、せめて抱き締めてあたためてやろうとした。

 しばらく抱えていて気づくと、ぬくもりと重さか変わるのに驚いた。やがて見る見るうちに尾と頭に耳が飛び出した耳が消えて人の姿になった。高浜は慌てた。裸の彼女をコートをかけて、どうしていいものかとうろたえたいると、ぶん殴られた。


「あのときはひどくやられて、わざわざこの俺が天地風の力を補充せねば小娘は死ぬところだった」


 カラスが何をしていたのか話してくれたことがある。補充するにしても、もっと隠れてしてくれという話だと思った。ボロボロの姿をしていたので、今から思えば幻妖獣とやらと死闘を繰り広げた後、隠れることもできずに二宮は倒れていたのだ。

 だから二宮と高浜はニコイチになってしまったという。ややこしい。それまでとは違い、今では高浜がいなければ、二宮は幻妖獣を封じ込めることはできない。白狐に変化することも、戦うこともできない。

 今も同じだ。


「あのときおまえにわたしの力が流れてきた気がしたんだ。いくつもの白狐としての力もおまえに奪われたまんまだ」

「知らないよ。ほっとくわけにはいかなかったから引き返してきたのに。人の姿になろうとしていたところに悪い印象しかしない。早く狐に戻してあげてください」

「そもそもわたしは人だ。これまで二宮の女は白狐の魂を継いできた」


 五穀豊穣の稲荷に使える彼女は、人の世に迷い込んでくる、幻妖なる者を退治しているらしいのだが、それからというもの高浜も巻き込まれることになってしまった。


「おまえがもっと力を操れなければ、わたしは強くなれん。だからおまえには修行させる。おまえはどこぞの誰かの出した問題を紙の上で解いて喜んでいる暇はない」

「成績一番で喜んでいたくせに」

「まあ……それはそれだ」


 二宮は顔を赤らめて咳をした。


「二宮家のこともあるからな。簡単な試験くらい人としての振る舞いも学ばんと」


 救った後、二宮は私立小学校から大学まで保証されていたところ、わざわざ高浜が入学した公立高校に転校してきた。縁が切れたと思っていたのに、入試のときに廊下で見たときは驚いた。他の生徒は二宮の美しさに驚いていたが、動揺して失敗した高浜は合格発表の日まで寝込んだ。

 合格発表が行われ、晴れて高校に入学できたときのうれしさと、二宮に見つけられたときの悲しさは今でも忘れない。せっかく華やかな高校生活を夢見ていたのに、わからないことに巻き込まれたくはないので必死で逃れようとしているところだ。


 あれはGW前の合宿で起きた。


 小学時代からの友人の定本が、二宮に惚れてしまった。バスケットボール部の一年生で地区強化選手に選ばれ、しかも学力は優秀で容姿もいい。話もおもしろい。高浜は引き立て役だ。そんな定本が、バスケットボール部の大会に来てくれと、二宮を誘おうと思うんだけどと相談してきた。


「誘えばいいのでは?」


 と高浜は答えた。

 実際誘ったらしいものの、バスケットボールには興味がないと断られたと落ち込んでいた。定本は凄い。夏休みも花火大会も誘った。夏休みも花火大会も興味はないと断られたようだ。二宮に「定本に興味がないのか」と尋ねたところ、二宮は「身も蓋もない言い方はできん」と答えた。定本は学年二番に甘んじたとき、二宮に勉強のことで話したが、勉強にも興味がないと簡単に流されていた。ちなみに一番は二宮だ。

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