第17話 大嫌いな雨だけど、あの子は雨が好きだった。
六月、梅雨の季節。
ワタシは雨が降ると死んだ娘の
理衣咲を思い出す。
大嫌いな雨だけど、理衣咲は雨が好きだった。
ポツポツと雨が降る。
「理衣咲……どうして……」
ワタシは顔を両手で覆う。
娘を失う悲しみは子供を
産んだことのない人には分からない。
「おかあさん、だいじょうぶ?」
ワタシを見つめる。
流羽奈はワタシの娘で、理衣咲の妹だ。
わたしは心配をかけまいと涙を拭い、笑顔を作る。
「大丈夫、何でもないよ」
理衣咲は轢かれそうになった
子猫を助けて六歳で
死んだ。
優しい子だった。
その優しさゆえの悲劇に胸が苦しくなる。
「さっ、お父さんが仕事に行っている間に
買い物すませちゃお」
ワタシは明るい調子で言って流羽奈と
共に玄関を出た。
雨は止み、空は絵の具で塗りつぶしたような
綺麗な青。
「理衣咲、元気にしてる?」
わたしは空の上の理衣咲に問いかける。
『おかあさん!雨が降ってるよ!
理衣咲あめすき!』
『お母さんは雨嫌いかな〜。
理衣咲はなんで雨好きなの?』
洗濯を畳みながら質問すると理衣咲はくるり
と振り向いた。
『だって、あめのおと
きいてるとたのしくなるもん。
おかあさんにおこられてかなしくなったときもかなしかったことをわすれちゃう!
だから理衣咲、生まれ変わったら、
雨になりたいな。
そしたらみんなたのしいきもちになるよ』
理衣咲の笑顔を思い出して泣きそうになる。
「雨よ降って……理衣咲。
お母さんを楽しい気持ち
にさせるんじゃなかったの?」
すると空から一滴のしずくが落ちてきた。
そしてすぐにポツポツと降ってくる。
それはまるで、理衣咲がワタシを楽しい気持ちにさせようとしているみたいで。
「理衣咲、ありがとう」
涙が溢れて止まらない。
「おかあさん?」
流羽奈が不思議そうに聞いてくる。
理衣咲。
お母さん、頑張るよ。
あなたの分まで生きて、流羽奈を育て上げる。
だから、理衣咲
ワタシが死ぬまで、楽しませてね。
ずっと……大好きよ。
理衣咲の笑い声が聞こえた気がした。
〈終わり〉
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