第14話 画面の向こう側
「え?」
俺は思わず声を上げる。
スマホの画面の文言から目が離せない。
『こちらで創作活動をしておりました、ruiが
今月2月に亡くなりました。
交流していただいた皆様には
感謝してもしきれません。
今まで、ruiを応援してくださり
本当にありがとうございました。』
小説投稿サイト エブリノベルのつぶやきに
投稿された不幸な報せ。
俺はただ呆然とそのメッセージを眺めていた。
コメント欄には追悼の言葉や投稿主を
気遣う言葉が並んでいる。
ruiさんはエブリノベルにて
小説を投稿していた人気者だった。
『瑠璃色の薔薇』は書籍化に留まらずコミカライズ
もされた人気の作品で、俺もruiさんのような
小説が書きたくて3年前に本腰を入れて創作活動に
取り組むようになった。
だからこそ、この訃報には驚いた。
ruiさんとは何度か交流したことがあるが
物腰の柔らかい優しそうな人だった。
小説を添削してもらったこともあった。
心無い言葉を投げつけるのではなく、
雲のように優しく、それでいて厳しい突っ込みも
されたが、俺の作品をより良くするための
愛の鞭だと分かった。
その結果、エブリノベルのコンテストで
優秀作品に選ばれたのはいい思い出だ。
『ruiさん!俺の作品が優秀作品に
選ばれました!これも指導してくださった
ruiさんのおかげです!ありがとうございます!』
『今、結果発表を見ました。
タケさんおめでとうございます。
心からお祝い申し上げます。
私はアドバイスをしただけで、
努力をしたのはタケさんです。
タケさん自身が頑張ったから優秀作品に
選出されたんですよ』
優しい言葉に涙が溢れそうになった。
その時は、これが最後の交流になることなんて
知らなかった。
ふと添付してあったURLに気づき、
クリックすると『ruiの日記』という
作品に飛んだ。
日記?
表紙にはオレンジ色のコスモスの花。
次のページにはruiさんが癌で余命宣告をされた旨
が書かれていた。
そんな……。
3年も交流していたのに、
闘病していたことすら知らなかった。
日にちは1年前の7月30日。
俺、何も知らなかった。
この日記の存在さえ、気づかなかった。
画面の向こう側の苦しみも悲しみも
どんな表情でこの日記を書いていたのかさえ
知らなかった。
胸がギリギリと締めつけられる。
所詮、ネットの繋がり。
家族でもなければ友達でもない。
けど、ruiさんは
エブリノベルの大事な仲間のひとりで、
俺の師匠でもあったんだ。
知らないことは罪だ。
なぜ、俺はruiさんをもっと
知ろうとしなかったんだろう。
画面の向こう側にいるのは人間なのに。
感情や痛みや匂いを感じる人間で
ロボットじゃない。
今更気づいても遅い。
だけど、ruiさんはそれすら全て分かった上で
俺と交流してくれていたんだろうなと感じる。
その優しさが憎くて、だけど温かい。
ruiさんはきっと俺が
いつまでも悲しむことは望まない。
俺は追悼の言葉を書き連ね、最後にこう結んだ。
『ruiさん、天国でも画面の向こう側から
俺達を見守っててください』
顔も本名も知らない俺達が
唯一繋がれる場所だから。
(終わり)
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