第12話 最後の贈り物


彼からの最後の贈り物プレゼント

指輪だった。


小さなダイヤが嵌め込まれた銀の指輪。


それと共にあなたは言ったわね。


「どうか、僕と結婚してほしい」


最上級の幸せに舞い上がって、

わたしはあなたに抱きついた。


嬉しくて嬉しくて、涙がポロポロと溢れた。

そんなわたしにあなたは苦笑いを浮かべて

優しく頭を撫でてくれた。


だけど、神様は残酷だと知ったのは

結婚式の一週間前。


あなたがこの世界を旅立ってしまったの。


通り魔から妊婦を庇ってあなたは命を落とした。

お人好しなのは昔から変わってないのね。


でも、わたしを遺して行かないでよ。

あなたはいつもそう。

自分より他人のことを気にしてた。

わたしは、あなたと生涯を共にしたかったのに。


結婚式はどうするの?

リングボーイを務める甥っ子の姿を

楽しみにしていたじゃない。

これからの生活のことだって。


ねえ、どうして。

どうして。


悲しみと虚無感が胸に込み上げてくる。


わたしは左手の薬指に嵌めた指輪を見つめる。

プロポーズしてくれたあなたの照れ臭そうな

表情が浮かんで、また涙が溢れた。


ねぇ、神様。

どうして、わたしから愛する人を奪っていくの。


奪うなら、最初から彼という

贈り物なんて与えないで。


そうすればこの痛みを知らずに済んだのに。


胸が苦しくてたまらない。

あれからわたしは

充分な睡眠も取れず、屍のように生きていた。


もう、疲れたわ。

あなたのいない人生を生きている意味なんて……。


橋から身を乗り出すと、

視界にキラリと光るものが映った。


それは、あなたがくれた指輪。


ああ。


熱いものが胸に込み上げ、瞳からこぼれ落ちる。


わたしにとって、この指輪はあなたそのもの。

あなたは、まだ死ぬなと言うのね。


本当に……死んでもお人好しなんだから。


それに、わたしが自殺なんてしたら

人を庇って亡くなったあなたが浮かばれないわね。


クスリと笑う。


あなたがいない世界で今日もわたしは生きている。

でも、この指輪が輝く限り、あなたは

わたしと一緒に生きているの。


あなたからはわたしに指輪という名の

『生きる希望』を与えてくれた。


ありがとう。

いつまでも、愛しているわ。


これからも、よろしくね。









(終わり)









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