第9話 サマー・リトルラブ♡


『ねぇ、今何してる?』


から始まるわたしと貴方のやり取り。

夏休みに入ってから

彼と接する機会がなくなっちゃって。


相手はクラスメイトの

畠中莉音はたなかりおん


密かにわたしが好きな人だ。


しばらく画面を見つめていたら 

『寝てた』なんて素っ気ない返事。


もう!

こっちの気持ちも知らないで!


腹いせにじと目の柴犬のスタンプ。


『何だよ?』


『別に。

ところで、夏休みどこか行く予定とかあるの?』


『特にないよ』


『ならさ』

ゴクリと喉を鳴らして精一杯のメッセージを貴方に。


『一緒に遊ばない?』


『いいよ』


すぐにかえってきた返事に舞い上がりそう。

心臓がバクバクして、胸を押さえて


『じゃあ、明日の11時に駅前集合ね』


ニヤけながら約束を取り付けた。



駅前で畠中を見つけた。

服装はとんでもなくダサいのに、

スマホをいじってる彼がかっこよく見えるのは

きっと恋の魔法。


「お待たせ!!」


駆け寄って少し照れ臭そうな上目遣い。

昨日読んだネット記事を参考にしてみた。


どうだ!

少しは意識するでしょ?


「おぉ、天野」


「『おぉ、天野』じゃなくて!!」


思わず突っ込むと彼は心底不思議そうな

表情を浮かべる。


「? じゃあ、なんて言って欲しかったんだよ?」


「そ、それは……」


可愛いね、とか。


「うぅっ、畠中の鈍感者っ!!」


「はぁ?意味わかんねー」


「意味わかんねーじゃないよっ!

これくらい分かれっバカっ!」


くるりと踵を返して、ふぅと小さく息を吐く。

ほんと、畠中のバカっ。


         ◯◯◯



「これくらい分かれっバカっ!」


天野が向こう側へと歩みを進める。


「おい、待てよ。まだ電車来てないぞ!」


「そのくらい知ってるっ!」


天野が頬を膨らませて振り向いた。


可愛い。

なんて思ってしまう自分がいる。


いつもはそんなこと思わないのに、

天野のツインテールとノースリーブ姿に

ドキドキしてしまう。


色付きのリップがいつもより艶めいて見えるのは

どうしてだ?


「ねぇ、畠中。

畠中はわたしのこと、どう思ってるの?」


真面目な口調に顔を上げると

天野が切なげな表情を浮かべていた。


「どうって……大事な友達だけど?」


「友達、か……」


「どうしたんだよ?」


天野って時々意味不明なんだよな。

そう思っていたら突然襟元をぐいっと掴まれた。


「!??」


気づいたら柔らかな温もりが唇に当たっていて。

真っ赤な顔で天野は俺を見上げる。


「これで、わたしを好きになってくれる?」


キス、された。


ぶわっと顔に熱が宿る。


「え? え?!」


つまり天野は俺のことを……。


「やっと意識してきた?この鈍感男め!」


悪戯っぽく笑う天野に

俺の心は小さな音を立て始めた。








(終わり)

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