血縁
@aoshibamitarashi
第1話
祖父が死んだ。
晩年、認知症が進んでいた祖父は
夜中に家を抜け出し、翌朝死体で見つかったとのことだった。
母からの連絡は突然ではなかった。
消音にしていた携帯がブブッと一度震えた。
その後続けて三度震えたため、私はケータイのパスコードを、入力し通知を確認した。
“おじいちゃんが亡くなりました。”
“明後日にお通夜、その翌日に葬儀の予定。
遠縁にはこれから連絡します。
帰ってこれそう?連絡ください。”
やはりそうか。先週母親と電話をした時には
もう1人で寝返りを打つことも出来なくなっていると聞いていた。
“明日帰るね。帰る時間また連絡します。”
文字を打ち終え、送信し携帯を閉じた。
「喪服ないな...」
私はひとりごちり、再度携帯のパスコードを解除し、明日予約していた美容院にキャンセルの連絡をした。
一年ぶりに見た祖父は、既に白装束を着ており
骨と皮のみだった。
仏間に寝かされている祖父は、なんだか起き上がりそうで少し怖かった。
「挨拶してあげてな。」
父に諭され、祖父の近くに寄り
祖父の肩近くに膝を置き話しかけた。
「おじいちゃん、琴です。今帰りました。」
それ以上なにを話したら良いのかと考えていたら後ろで障子を開ける音がした。
「琴ちゃん。おかえり。
遠かったやろ。ありがとうね。」
祖母が少し前重心になりながら
父の近くに寄った。
「昭敏、幹さんのとこにも連絡したか?お花はどうするの。」
祖母が正座する父の横に座ろうとしながら
近くの座布団を引き、膝の下に滑らせた。
「幹二さんには連絡してるで。花は心配せんでも大丈夫やから。お袋は自分の準備してたらええよ。」
父が祖母から離れるように立ち上がりながら話を続けた。
「葬儀屋には都度連絡してるし、坊様にも電話したで、ええよ。」
「そうか...」
祖母は自身の膝を見ながら小さく返事し
続いて立ち上がる母を見つめた。
「玲子ちゃん、お父さんの方には言うたの?」
「うん、言った言った。お通夜から来るって連絡きたよ。」
いつもより少し優しさを含んだ母の話し方に
母も伴侶を亡くした祖母に気を遣っているんだと思いながら、もう一度祖父に目をやった。
昭和にしては、大柄だった祖父が
骨と皮になってはいるが、やはり威厳がまだそこにあった。
やはり私は祖父に似ているんだろう。
幼い頃から、親戚によく言われた。
「琴ちゃんは、ほんとによう似とるわ。
おじいちゃんそっくりや。」
大きな目と二重、堀が深い割に若い頃は黒々とした直毛と、真っ黒な黒目。
祖父と話す時、時々目が逸らせなくなる。
あの真っ黒な黒い目を見ていると、逸らしてはいけないような、そんな気がしていた。
「琴、行くよ。」
母に呼ばれて、私は立ち上がり仏間を後にした。
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