第30話 デート

 その後、孝紀君は一年生の若宮咲子と仲良くなった。若宮咲子は積極的に孝紀君に絡んできていた。


「孝紀君が咲子ちゃんと付き合うのは時間の問題だと思うんだよねえ」


 私は今や親友とも言える城山詩織に電話で言った。私は詩織にはすっかり気を許して今や孝紀君と言ってしまっている。一度口を滑らせてからはそのままだ。幼馴染みみたいなものだからと説明していた。


『そうなんだ。でも、真由ちゃんは本当にそれでいいの?』


「え? なにが?」


『だって、竹崎君に彼女出来ちゃうんだよ。いいの?』


「私はそれを望んでサポートしてるんだよ」


『いつもそう言ってるけど、でも何のため?』


「それは……孝紀君が杏樹さんに振られて悲しんでるから……」


『でも、そのために彼女を作るんなら真由ちゃんでもいいんじゃないの?』


「私? 私はそういうのにはならないから」


『どうしてよ。真由ちゃん、竹崎君のこと、すごく大事に思ってるじゃない』


「そうだけど……」


『素直になったら? 竹崎君も真由ちゃんのこと、大事に思ってると思うけどなあ』


「……いいんだよ、私は」


 詩織は私のことを一番に考えてくれる。確かに孝紀君と私はかなり仲良くなったと思うけど、私は孝紀君の彼女にはなれない。だって、いろいろと嘘をつきすぎている。私の一番のミッションは孝紀君を助けること。だから私がどう思われてもいいんだ。


◇◇◇


「孝紀君、咲ちゃんと相当仲良くなったよね」


 図書館からの帰り、私は孝紀君にそう話しかけた。


「まあそうだな」


「デート誘ったら?」


 もう大丈夫だと思う。ここで一気に決めて欲しい。


「誘おうとしたんだけど週末には用事が入ってるみたいで。暇が出来たら連絡するって言われた」


「へー、そうなんだ」


「でも、いい感触なのは確かだな」


「そっかそっか……もしかして、かなり充実した高校生活になってる?」


「そうだな……」


 孝紀君が最近学校を楽しんでいることは私にも感じられた。これなら自殺することなんてないだろう。


「うんうん、いいことだねえ。孫は嬉しいよ」


「なんだそれ。でも付き合ってはいないからな」


「もう一押しじゃない?」


「そうかもな」


「よかったよかった」


 私は本心からそう思った。でも、孝紀君がいい学生生活を送れるようになったということは私の仕事ももうすぐ終わりだ。孝紀君との別れが近づいているのかもしれない。嬉しいことだけど寂しいな、そう思ってしまった。


 でも次の瞬間、孝紀君はこう言った。


「なあ、真由。たまには俺と一緒に遊びに行かないか?」


「え? 私と?」


 私は驚いて孝紀君を見た。


「ああ」


「だから、ダメだって。私を好きになっちゃ……」


「それは分かってる……ただ孫を遊ばせたいだけだよ」


「それならいいけどさあ」


「いいだろ。おじいちゃんに甘えろよ」


「う、うん……少しぐらいならいいよね、甘えても」


 杏樹さん、ごめんなさい。


「そうだぞ」


「よし、じゃあ、次の土曜日、デートね!」


 私はデートを楽しむことに決めた。


◇◇◇


 土曜日。私は八代から熊本駅に向かう。駅ビルのすぐ近くの噴水前に孝紀君は居た。


「ごめんごめん、遅れて」


「真由、なんで駅の方から来たんだ? ホテルとは逆方向だろ」


 しまった。私はホテル住まいの設定だった。


「え? ああ……ちょっと駅を見てただけ」


「なんだ早めに来てたのかよ、まったく……」


「アハハ、実はそうなんだ。孝紀君、じゃあ、行こうか」


 私はごまかしたくてつい腕に抱きついた。


「お、お前……」


「今日ぐらいいいじゃない。孫なんだし」


「いいけどさあ」


 でも、それが気持ちよすぎてずっと抱きついてしまう。そのまま駅ビルに入った。


「……服でも見るか?」


 孝紀君がそう言った。宮坂美智留にも言った言葉だ。私もちゃんと異性としてみてくれてるのかな。嬉しくなった。


「そうだね! ユニクロ、GUあたりに行こうよ!」


「いいけど、お金はたくさん持ってるんじゃないのか?」


「いやあ、そろそろ未来からの資金が尽きてきてね」


「電子的なお金は?」


「そっちもハッキングがうまくいかなくて。ちょっとピンチなんだ」


「よくホテルに居れるな」


「まあ、それぐらいのお金はまだあるけどね」


「じゃあ、仕方ない、今日は俺がおごるか」


「え? 悪いよ」


「いいよ、可愛い孫におごらせてくれ」


「うーん、じゃあ、少しね」


 私が孝紀君にお金をたくさん使わせるわけには行かない。でも、私は一つある物を見つけた。


「孝紀君、これでいいかな?」


 私は白いベレー帽をかぶった。これは杏樹さんが見せてくれた写真で私がかぶっていたものだ。ここで買うことになるのか。

 白いベレー帽をかぶった私を見た孝紀君はなぜか動かなくなった。


「どうしたの?」


「ちょっと見とれてた」


「えー! 嬉しいなあ、孝紀君が見とれるレベルか」


「いや、似合ってるから」


「でしょ。まあ、素材がいいからね」


「確かにな」


「あれ? それ認めちゃうんだ。私、杏樹さんよりは可愛くないと思うけど」


 高校生の杏樹さんはすごく可愛かった。


「そんなことないだろ」


 そう言って孝紀君は近づいてきた。


「た、孝紀君、だめだって……」


 あまりの接近に抱きしめられるんじゃないかと思ってしまう。自分の顔が赤くなるのが分かった。


「た、孝紀君……」


「わ、悪い……


 孝紀君はそう言って少しずれているベレー帽を直してくれた。


「あ、ありがと」


 私の勘違いだった。思わず恥ずかしくなってしまう。


「うん……」


「でも、惚れちゃダメだからね」


「……だよな」


「孝紀君には咲ちゃんが居るでしょ」


「若宮さんは……そうだな……ごめん」


「ふふふ。いいよ。孝紀君が私にもちょっとは気があるところを見せてくれたし」


「う……言うな」


「そんな孝紀君のために今日は私が彼女役やってあげるからさ」


「ありがとな。でも、買うのはそのベレー帽でいいのか?」


「うん! 気に入ったから!」


「そうか……じゃあ、買うか」


 私たちはベレー帽を買って店を出た。


 孝紀君は映画を見る予定だったみたいだが、私は映画で貴重な時間を使いたくなかった。


「フィクションよりも現実だよ。孝紀君と遊びたい」


「そうか。じゃあ、どこ行く?」


「ここは遊べるところ無いの?」


「じゃあ、ゲームセンターか」


 私たちは6階のゲームセンターに行った。


「これ何? 写真撮るだけの機械?」


 プリクラはもちろん知ってるけど私は未来から来た設定だからそう言ってみる。


「そうだな。でも、スマホにデータを入れたりもできるぞ」


「最初から自分で撮ればいいじゃん」


「シールになったり加工できたりと面白いんだ」


「ふうん……やってみようかな」


 そういいながらも私は孝紀君とプリクラを撮りたかったのだ。でも、撮る直前に気がついた。そっか、私が最初に見た孝紀君の写真ってこのときのなんだ。じゃあ、歴史は変わっていないんだ。私は間違っていなかったんだな。今日は楽しんでいいんだ。


 プリクラのあとはクレーンゲームのコーナーに行く。


「なにこれ、古風だねえ」


 わざとそう言って見る。


「未来には無いのか?」


「無いねえ、だいたいバーチャルなのが多いから」


 一度だけ行ったアミューズメントパークを思い出して言う。


「そうか。それはそれでつまらないなあ」


「そう? すっごく面白いよ。でも、この時代の人はリアルを大事にしてるよね。いいことだと思う。じゃあ、何かやろうかな」


 自分もこの時代の人なのにそういったときだった。


「若宮さん」


「え、竹崎先輩……」


 若宮咲子が見知らぬ男と二人で腕を組んでいた。


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