転校生は俺の孫!? ~未来から来たという美少女はフラれた幼馴染みによく似ている~

uruu

第1話  新学期

 新学期が始まるころ、熊本の桜はたいてい散っているはずだが、今年はなぜか残っていた。桜の花びらが散らばる道を歩き、俺は高校2年のクラス分けの掲示を見る。俺の名前が「1組」にあった。そこに幼馴染みの名前は無い。良かった。俺は安堵し歩き始めた。


孝紀たかのり!」


 掛けられた声に思わず振り向く。そこには会いたいけど会いたくない人物が居た。望月杏樹もちづき あんじゅ。俺の幼馴染みだ。相変わらずショートボブの黒髪が似合っている。その笑顔に何度魅了されたことか。だが、今となっては失恋した相手だ。


「……別のクラスになっちゃったね」


「そうだな」


「あまり話せなくなるね」


「そうだな」


 と言っても、同じクラスだった1年生でも後半はほとんど話していなかった。俺が振られてからは気まずい関係だ。


「……たまに話しかけてもいいかな?」


「暇だったらな」


「だったら――」


 そこで「杏樹!」と女子から声がかかった。


「……またね」


「ああ」


 俺はそう言うと教室に向かった。


 去年の夏休みに入るころ、俺は望月杏樹に告白した。しかし、「付き合うなんて考えられない」と言われてしまった。それからの俺はふさぎ込むようになり、三学期になるまでそのままだった。一人で居ることも多くなり、今は友達らしい友達も居ない。だから、クラス分けも杏樹のことを確認したあとは何も見ずに教室に向かった。


◇◇◇


 始業式が終わり、クラスでは自己紹介が行われていた。


城山詩織しろやましおりです。図書部です。よろしくお願いします」


 すごい拍手だ。城山さん、今年も同じクラスだったか。相変わらず長い黒髪が綺麗だ。学年で一番の美少女とも呼ばれる城山さんは同じ図書部だけどほとんど話したことが無い。まさに高嶺の花だ。


 俺の番になった。だが、あまり話すことは無い。


竹崎孝紀たけざき たかのりです。図書部です。よろしくお願いします」


 ぱらぱらと拍手があった。だが、一人熱心に拍手しているやつがいる。誰だよ、と思って見てみたが知らない女子だった。誰なんだあいつ……他の生徒には普通の拍手のようだし、俺にだけ熱心に拍手を送ったのか。何の意図があるのやら……


 そしてその謎の女子の自己紹介になった。


前川真由まえかわ まゆです! 2年になってこの高校に転校してきました。よろしくお願いします!」


 なんだ、転校生だったのか。じゃあ知らなくて当たり前だ。しかし、なんで俺の時だけ拍手してきたんだろう。不思議だ。ただ、一目見て気になる感じの子なのは確かだった。なぜなら幼馴染みの望月杏樹と同じようなショートボブで、何となく雰囲気が似ていたからだ。


◇◇◇


 放課後になると、転校生である前川真由はたくさんの女子や男子に囲まれ質問攻めにあっていた。早速人気者だな。俺はそれを横目で見ながら、教室を出て図書館へ向かった。部活だ。


 この学校では図書委員は居ない。図書部という部活動で図書館の運営をしている。図書部に参加しているのは本が好きなやつだ。図書館で新たに購入する本を決定する権限もあるし、読書感想会などのイベントもある。


 一年の頃、杏樹の部活が終わるのを待つため、俺も何か部活に入る必要があった。昔から本好きな俺は図書部に入部することにしたのだ。


 この学校の図書館は独立した建物で、校舎から渡り廊下を渡って入って行く。二階建てのこの古い建物は一階が通常の書架と学習・読書用のテーブルがあり、二階には貴重な資料が収蔵されていた。


 図書館に着いた俺の仕事は、まず一階で返却された本の整理。返却本のコーナーに向かうと受付には城山詩織が居た。早いな。俺もすぐに教室を出たつもりだったが、城山さんはもっと早かったか。俺が図書部に入った理由の一つはこの城山さんの存在だ。こんな美人がいる部活なら楽しいだろうと思ったのだが、実際には会話すらほとんど無かった。


 今日も城山さんと特に話もせず、俺は本を書架に戻していく。ようやくそれが終わって、受付に向かおうとしたときだった。


 あの転校生・前川真由が図書館に入ってきた。学校施設の見学でもしているのだろうか。それにしては誰も案内している人は周りに見当たらないが……


「あ、居た!」


 前川真由が俺を見て近づいてきた。


「ちょっと話があるんだけど、図書部っていつ終わるの?」


 今まで一度も話していないのに、俺の前に来た前川真由は妙に馴れ馴れしく話しかけてきた。なぜかニコニコしている。


「え? 俺?」


「うん、そうだよ」


 一体、俺に何の用事があるのか。全く見当が付かない。


「……5時頃には終わるけど」


「分かった。じゃあ、本読んで待ってるね」


 前川真由はそう言うと、書架の方に向かった。


 その姿を見て俺は気がついた。なぜ前川真由が俺の幼馴染み・望月杏樹と雰囲気が似ているのか。もちろん、髪型が同じということもある。だが、それ以上に気になったのは髪飾りだ。黒猫のヘアピンをしている。黒猫だから目立たないが、近くで見たら分かった。あれは……俺が杏樹に贈ったやつとそっくりだ。


「――前川さん、来たのね」


 突然、声を掛けられ、振り向くと城山詩織が居た。


「え?」


「いえ、前川さん図書館に来たんだって思って」


「うん……そうだね」


「本好きなのかな。図書部に誘ってみたらどうだろう」


「……それもいいかもな」


 滅多にない城山詩織との会話に、そう答えるのが精一杯だった。

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