メンヘラ王子の恋心。
餅月 響子
第1話 一目惚れ
学校の中庭で爽やかな風が吹いた。広葉樹に休んでいたスズメたちが家族会議をしているようにチュンチュン鳴いている。ベンチに座って、少し甘めの牛乳パンを頬張っていた。さらに牛乳を飲んで体の中が白くなるんじゃないかと考えながら、左手にはスマホを握っていた。毎日欠かさずやっているスマホゲームの一日ミッションをまだやり終えてないことを思い出す。
ふと、三階の廊下を覗くと、二つの三つ編みを垂らして両手に本を握りしめる名前も知らない女子がいた。一瞬の出来事だった。
吸い込まれるように目が離せない。まつ毛が長く、白い雪のそうな肌。すらっとした体形。細い腕が遠くから見えた。
今まで気にしたこともなかった。
頬にそばかすをつけて、眼鏡をつけている彼女は、どこからどう見ても古風な陰キャラ。
食べていた牛乳パンを慌てて、食べ終えて、ラウンジ近くの階段を駆け上った。
「あれ、耀汰。どこ行くの? そんなに慌てて」
購買部で何を買ったか自慢をしていたカップルの
「お、おう。俺は、パン食べ終わって無性にさ。階段上り下りをしたくなったってところよ」
想いを悟られたくなかった耀汰は適当にごまかした。
「え、俺もやろうかな。ダイエットになるもんな。筋肉ムキムキ!」
瑛斗は耀汰のノリに付き合おうと準備運動を始めた。
「いやいや。やめとけって、俺と張り合ったらメンタルやられるぞ?」
「は? 何の話よ」
「……ねー、良いから。瑛斗はあたしとランチタイムでしょう! 階段なんていつでも上り下りできるじゃん。今はパン食べようよぉ!」
「おうおう。行けばいいだろ。俺は、行かないといけないからな。瑛斗よりムキムキになっておくわ!」
そう吐き捨てて、耀汰は急いで駆け上がった。残念そうな瑛斗の顔だけが目に焼き付いて残っているが、犬のように顔をブンブン振って気持ちを切り替えた。二人は体を密着させて中庭のベンチに行ってしまった。
今何をしようとしていたんだっけと顎に手をつけて考える。さっきまで目で追いかけていた彼女を思い出した。まだ三階の廊下を歩いていてほしいと強く願う。その近くには図書室があったはずと思いながら、全力疾走で三階まで登る。お昼になる前にトイレでセットしたはずの前髪がうねりはじめてきた。汗も滴り落ちる。これは行くのをやめた方がいいじゃないかとさえ思えてきた。会うのなら、ベストコンディションなスタイルの方がいいに決まっている。耀汰は行こうとした図書室の扉を開けることなく、ぐるりと振り返って廊下を進んだ。
「……わぁ!」
すると、後ろの方で声がした。その声に反応してまたぐるりと体を向き直す。図書室前の廊下では、さっき見かけた彼女が持っていた大量の本を落として拾っていた。
「いたたた……」
腰をぶつけたようで拾いながら、背中あたりを撫でている。
「……大丈夫?」
「わぁ!!!!!」
耀汰が声をかけた瞬間にさらにびっくりする彼女がいた。
「いやいやいや。俺はおばけかよ」
「ご、ご、ごめんなさい。まさか、ここに耀汰くんがいるなんて思わなかったから……」
「……え? なんで俺の名前知ってるの?」
「え?」
廊下の窓から強い風が吹いた。彼女の髪が揺れて、持っていた本がまた床に落ちる。耀汰は一緒に落ちた本を拾い始めた。
「知ってるも何も同じクラスでしょ?」
「…………」
耀汰の口が開いたまま、塞がらなかった。身体が硬直してしばらく動かすことができなかった。
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