働かないえりぞ
えりぞ
赤坂、檻の中の終わり
モソモソと焼いたサバを箸でほじって口に運ぶ。
留置所の飯は美味い。毎日食べても飽きることがない。俺は同室のネパール人「1番」に頼んで麦茶なのかほうじ茶なのかわからない、まったく味のしないお茶を取ってもらった。焼き鯖とご飯と一緒に喉に流し込む。
即席のお茶漬けを楽しんでいると檻の外にいる警察官に声をかけられた。「13番」それがここでの俺の符号で他に名前はない。
「食事中悪いけど、持ち物を全部持って外に出て。弁当もそのままでいいから」
檻の外には4人の警察官が立っていた。
「来ましたね」
同室の「24番」が薄く笑って祝ってくれた。
「お疲れ様でした」
そういわれてから、それまで毎日顔を合わせていた「1番」「24番」の顔を見ていない。
檻の外に出ていろいろと手続きをし俺は刑事課のエレベーター前で解放された。全面銀色のステンレスのエレベーターの中、とりあえず1階のボタンを押して降りる。
ロビーに青い服の女性がいてゆっくりと立ち上がりこちらを見つめる。妻だった。
「なんでいるの?」
「待ってたからだよ」
「何時から?」
「3時から。いつ出てくるかわからないから」
茫としていた僕に今日は台風なんだと妻は急かすようにビニール傘を押し付けて外に出る。まだ外は明るかった。半月ぶりの空。植え込みとはいえ木があって土もある。
ここには美がある。帰ってきたのだ。
妻が急かすように手を繋いでくる。この人はまだ僕の恋人で、妻なのだと刺さるように理解する。
「帰ろう」
彼女はそういって、僕の手を引いて歩き始めた。
信号が青に変わる。
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