貴族の実像・1
ひとまずクレアを連れて帰り、安静にさせつつ善後策を練……
ろうとしたのだが。
『さて、誰を騙すでちかね~♪』
メリーの奴、俺が金稼ぎのために誰かに名乗らざるをえないと分かり、しかもそいつから金を取るつもりであるということが分かって楽しそうにしてやがる。
このあたりはやはり魔族ということなのだろうか。
『ここから一番近くにあるのはカネモウケ伯爵の屋敷でちね』
名前を言われても貴族のことは全く分からない。
というか、メリーは見た目からして馬鹿そうだし、人間の貴族のことまでどうして知っているのだろうか。
『それはおまえ、あれでちよ。こういう状況になったら、自分が生き残るためには何でも教えてくれる奴がいっぱいいるんでちよ』
人類の中から裏切者が出ているということか。
『魔王様がエデンを助けると言っているのならば、別ルートで自分も助かると思い込んでいる連中が多いでちからね』
確かに、どこの誰とも知らん奴隷を助けるのならば、身分が高い自分たちだって助かる方法があるはずだと考えるのは自然かもしれないな。
むしろ俺だって、他に助けるべき奴がいるんじゃないか、くらいに考えてしまう。
「そういう人たちも場合によったら助けるのか?」
普通に尋ねてきた。別に俺だけ助けるのが嘘だったとしてもそれはそれでかまわないくらいだ。逆に俺だけが助けられるという話の方が重い。
メリーは少し考える仕草をしたが、「そんなことはないでちよ」と断言する。
『魔王様が助けるのなら助けるでちが、人類の仲間を裏切るような人類を助けることはないと思うでち』
「俺以外に誰かを助けるつもりはないと?」
『今の時点では間違いなくそうでち。その点についてはあたちもアリーゼが保証するでち』
……メリーがそこまで言うのなら、現時点では信頼するしかなさそうだ。
のんびりしてはいられない。
クレアの母親と弟が、俺にすがるような視線を向けてくる。
2人だけではない。掘っ立て小屋に共同で住んでいた人たちも「クレアちゃんはいい子だから助かってほしいねぇ」とか「あの男が招いたんだから何とかしてほしいよねぇ」とか言っている。
俺が招いた、というのは甚だ不本意だが、クレアを助けなければならないというのは事実だ。
仕方ない。カネモウケ伯爵のところに行くとしよう。
王都の中にあるかと思いきや、カネモウケ伯爵の屋敷は森をもっと奥の方に行ったところにあるという。
「こんなところにあるのか?」
俺が尋ねると、メリーはものすごくどや顔をしている。
『チッチッチ、おまえは甘いでち。人目につかないところの方が金儲けを色々できるでちよ』
「……それって」
人に知られればまずいことをして金儲けをしているということか?
『それはおまえが直接確認すればいいでち。あたちやアリーゼが見るにはこの面々に情けは無用でちよ』
「どうして?」
『この連中は山の上で色々なものを作り、ゴミは全部川に流しているでち。その川が流れているのが』
「……クレア達のところ?」
『正解でち。彼らは何も言わず、ひたすらゴミをクレア達に飲ませているでちよ。極論すれば、あのあたりに住む連中はみんな痛めつけられているでち。ただ、クレアは働きすぎで体が弱っているので、それが顕著に現れているだけでち』
「そんな……」
『そんなものでちよ。だから、別に遠慮する必要はないでち』
メリーはそう言うが、メリーの言い分だけを一方的に信じるのも抵抗がある。
クレアのことは気になるが、一応、カネモウケ伯爵が何をしているのか実際に見てみたいところだ。
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