魔族の姉妹

 大パニックに陥っている街を散々見せられた後、俺はメリーと共に今朝の山へと戻ることになった。


『あらあら~、エデンさんに姉さん、お帰りなさい』


「あ、どうも……ってぇぇぇっ!?」


 昨夜聞いた癒し系ボイス。この声の持ち主はメリーの妹だ。


 だから、そこにいるのもメリーと似たような存在だろうと思った俺。

 立っていた存在を見て思わず叫んでしまった。


 そこにいるのはメリーとは似ても似つかないナイスバディ……な大人なお姉さん魔族だ。

 人間では到底ありえないスタイルに加えて、アンニュイな表情に、泣き黒子と、顔にもお姉さん的特徴を兼ね備えている。


「あ、あんたが……メリーの妹?」

『はい。アリーゼポリアンヌ・フォン・ド・ブランドフェレールと申します』



 そうだった。


 こっちもやたらと名前が長いんだ。


 ただ、こっちは大人な感じの人だから気軽に「愛称で呼んでも良い?」とは聞きづらいな。



『姉がメリーなら、ワタクシのことはアリーゼとでも呼んでくださいませ』



 あ、向こうから愛称を提案してくれた。


 これはラッキー。


 しかし、この2人……



『何でちか? 馬鹿にしたようなものを視線から感じるでち』



 い、いや、馬鹿にしているわけではないのだが……



「2人って本当に姉妹?」


 あるいは親が片方違うとかだろうか? 母親が別人とか。


『そうですよ~。どちらも同じですよ~』

「それにしては随分印象が違うな……」

『まあ、歳をとると段々細くなるといいますからね』



 それってものすごく歳のいった爺さん婆さんの話では……


 というか、この妹、かなり姉をいじっているような……


 って、それはどうでもいいんだ。


「アリーゼさん、俺と家族だけが生き残ってもいいというのはどういう理由なんだ?」


『うん? 何であたちは呼び捨てで、アリーゼは”さん”付けなんでちか?』


 それはまあ、見た目の雰囲気というか……


 とにかく、この状況の理由だ。何故、俺だけ生き残っても良いか理由を知りたい。


『……それは分かりませんねぇ。魔王様の深謀遠慮によるものでしょうから』


 回答は姉妹同レベルだった。



「今日一日街の混乱を見てきた。魔王を倒すために俺と結婚したいとか、魔族にとって危険なことを考えている者もいたが、そんな相手を家族として選んだとしてもいいのか?」


『魔王様からは特に条件は聞いていませんからねぇ。大丈夫なんじゃないですか?』


「……だったら、魔王に直接聞きたいのだが」


『うーん、魔王様は現在、エルフ族の国を攻撃していますからねぇ』



 魔王は近くにはいないようで、一方的に指示だけが送られてくるという。


『エデンさんが魔王様に会いに行く間に三カ月が過ぎてしまうかもしれませんので、人類にとっては良くないことでしょう』


 なるほど……


 うん? そうなると、魔王は自分が関与することもなく、勇者も倒したし、人類滅亡を確定させたというわけか?


『当然でち。このメリオンプルセーヌ・フォン・ド・ブランドフェレールにかかれば人類など小指で十分でちよ……』


「え、あんたが大将?」


『そうでちよ』


 まさかこの幼女が魔族の指揮官だったとは。


 人類にとっては屈辱的過ぎる話だ……



『おまえはこの魔族の名門たるメリオンプルセーヌ・フォン・ド・ブランドフェレールを馬鹿にしているフチがありまちね。気に入らないでちよ』


 すまん。


 でも、何というか、その見た目と話し方で尊敬しろとか畏怖しろと言われても……



 と、そこでアリーゼが一つの考えを提示する。


『魔王様がエデンさんを助けると言われた真意は分かりませんが、理由を敢えて考えるなら、エデンさんの「奴隷にしてはしっかりと考えるところとか語彙があるところ」が一つの鍵になりそうですね』


「しっかり考えるところ?」


 俺にはさっぱりだが、メリーも同意した。


『確かにそうでちね。奴隷はもっとパッパラパーなもので、知恵も知識もないものでち。そこからすると、エデンは頭がちっかりしているでち』


 パッパラパーは酷いが、奴隷にしてはしっかりしている、か。


 自分がしっかりしていると思ったことはないが、そうなんだろうか?


 俺のいたところは、奴隷としてはまだマシな扱いという話だったから、その話も関係しているのかな?



『ま、それはおいおい考えるとちて、明日は人間に戻ってもう一度街に行ってみるでちよ』


「うわぁ……」


 一体、どんなことになるのか。


 考えるだけでも怖いなぁ……。

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