フラット・ワールドP1

ちびまるフォイ

平面地球の終わり

『我々はハッカー。これまで世界がひた隠しにしていた真実を明らかにする』


すべてのスマホの画面がジャックされる。

ハッカーは全世界に呼びかけた。


『世界は平面だ。丸い地球なんて作り出された嘘にすぎない』


次々に提示される証拠などはもう見ていなかった。

その後、地球のへりっちょへ行くツアーなども始まった。


「わぁ、本当に宇宙なんだなぁ……」


地球が平面であることは今や周知の事実。

へりに立つと漆黒の宇宙が見える。


「あ、黄色線より内側には入らないでください。

 宇宙に入ってしまいますから」


ツアー引率が慌てて指示を出す。

もしも宇宙に落ちたら戻ってこれないだろう。


「ツアーガイドさん。あれはなんですか?」


「あれ?」


「ほら、宇宙の遠くにある……アレです」


「ああ、あれはゴミですよ」


「ゴミ?」


「地球って平面じゃないですか。

 で、処理できないゴミとかはココから捨ててたんです」


「はあ……」


「めっちゃ宇宙にゴミ捨てたのバレたくないから、

 政府は今の今まで地球は丸いって言い聞かせてたんです」


「しょうもない理由……」


観光の最後には宇宙に向かってランタンを飛ばす企画をして終了。

地球と宇宙の境界にある「宇宙ガードレール」が見れただけでも十分満足だ。


地球の端っこ観光ツアーを体験した翌日。

朝起きると壁になぜか吸い寄せられていた。


「寝相が悪いにしてもほどが……あれ!?」


まるで重力が傾いている気がする。

ベッドに戻ろうにも部屋が坂になっていて滑り落ちる。


「どうなってんだ!?」


家を出ると外も同じ状況で、傾いた道路に人が滑り落ちている。

ネットを確認すると傾いたスタジオでキャスターが報道していた。


『大変です! 平面の地球が片方に傾いています!

 みなさん、どうか屋内に避難してください!!』


なぜ傾いているのかの原因はわからない。

専門家たちも「傾いているから、重心が傾いているのです」と

なんの意味のないコメントを繰り返すばかりだった。


「とにかく家にいれば大丈夫。宇宙へすべり落ちる心配はないはず!」


家に戻って窓や扉を固く閉じる。

これでもう安心。


と思ったが、徐々に傾斜はより高くなっていっている。


「おいおいおい!? なんだよこの急勾配!?」


すでに90度に迫っている。

傾きに耐えきれなくなり、家が土台から宇宙へと落下していく。


「あぶねぇ!!」


あと一歩家を出るのが遅かったら、家ごと地球の端まで落っこちていた。

ますます傾斜はひどくなるばかり。


ついには90度ほどまで傾いてしまう。


次々にマンホールの蓋が弾丸のように飛んでくる。

地下へのはしごを掴んでぶら下がる。


垂直の道路があり、足元は宇宙の闇が広がり続けている。


地球と宇宙の境界を守っていた宇宙ガードレールも、

滑り落ちたさまざまな建築物のタックルで崩壊している。

セーフティネットもない。


けれど腕はすでに限界を迎えている。


「もう……ダメだ……!!」


ハシゴにかけていた腕の力が抜けた。

足元の宇宙へ真っ逆さま。


もう助からないことを悟る。


宇宙へと落っこちながら、最後に平面の地球を見上げた。


平面の地球のかどっこ。

端っこになにか文字が見えた。



『P1』



最後に記号が見えた。

その意味をわからないまま、宇宙へと体は投げ出された。




平面地球は90度を超えて反転した。

もう誰も平面地球に生息する生物はいない。




「……こ、ここは……?」



顔を上げると緑豊かなジャングルだった。

宇宙に投げ出されて死んだはずだと思ったのに。


まるで手つかずの恐竜時代のような地球で目が覚めた。


夢じゃないと何度も確認しながらアテもなく歩き続ける。

自分以外にも平面地球から落ちた人間が倒れていた。


「みんなここに落ちたのか。いったいここはどこなんだ」


自分がちょうど落ちた場所が角っこだったのだろう。

宇宙との境界ギリギリの端っこまでたどり着いた。


平面の角にはやっぱり大きな文字が書かれていた。



Pページ2』



宇宙を見上げると、人が住めないほど荒れたP1の平面地球が見えた。

足元には再び潤沢な自然があるP2平面地球が広がる。


さらに端っこで下を見ると、P3の平面地球もちょっとだけ見えた。

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