第9話 満を持して馬鹿野郎
笘篠さんとお友達になる作戦は至って順調だ。
昨日今日で話すようになってから、よそよそしさがなくなってきたように思う。このゴールデンウィーク中に友達になるなど無謀だと思っていたが、あながちそうではないかもしれない。
だって、今俺の隣には笘篠さんが座っている。公園でバイバイするはずなのになぜかベンチで語り合っているのだ。
「にしても、笘篠さんが有名になったら、ここの公園にみんな集まっちゃってきちゃうよなぁ、そのうち」
「たしかにね。それこそストーカーがここを見張るようになるかも」
「いざ体験してみるとほんと怖いよぉ」笘篠さんは言う。
会話の流れを再びストーカーに戻すことに多少の申し訳ない気持ちはあるが許してほしい。
「さっきの人、もしかしたらここら辺を彷徨いているかもしれないからね」
「だよね……」
「もしかして笘篠さんの家ってここら辺だったりするの?」
「ううん、もうちょっと行ったところだよ。こっから徒歩で30分くらいかな」
「そっか。でもやっぱ徒歩だとあぶないよね、とくに夜道とか。自転車通勤にはしないの?」
結構真摯に相談に乗っているつもりで俺が何気なく言うと、途端に笘篠さんはバツの悪そうな顔をした。
「自転車……あー……私自転車乗れない……あぁ……」
「流石に恥じすぎるよね……」項垂れる笘篠さんに対して、俺の顔は少し上をむいていた。これは好都合かもしれない。
「あれ、練習するタイミング逃して、そのままきちゃったタイプ?」
「え、なんで分かったの!?」
「友達にそういう人いるからね。ちなみに俺が教えたからその人はもう乗れるんだなぁ」
「ちぃ、今一瞬同士がいたと思ったのにっ!」
「ダンス、教えてくれるなら練習に付き合ってあげてもいいよ」
この流れ!
よくぞ俺は逃さず提案までできた。まじ頑張った。
「えぇ、いいの!」
おっと、食いつきがいいぞ?
「全然いいよ。俺も笘篠さんのダンスほんとかっこいいなって思ってて興味あったから」
「やった! ありがとう、東くん!」
勢いよく頭を下げてくる笘篠さんの顔つきはどこか晴れやかに思える。
正直俺の提案が突っぱねられる可能性も大いにあった。そうなった場合はちょっと大変だがまたコンビニ通いを続けながら機を待つつもりだった。
今回そうならなかったのは、むしろ俺と笘篠さんの関係性が薄かったからかもしれないな。利害関係をつくりやすかったわけだ。
ともあれ、これでまた俺と笘篠さんの仲が深まったなこれ。
「その、都合のいい日とか教えてほしいから」
笘篠さんが携帯を取り出したので、俺も取り出し手際よく連絡先を交換する。もうこれ友達だろ。だってほら友だちになったって通知来てるし。
そしてすぐ笘篠さんからファンシーな猿のスタンプが送られてきた。
「よろしくね!」
「こちらこそ!」
浮かれるな、俺。
いやいいか。笘篠さん可愛いしこれもやむ無し!!
◆
かくして、俺と笘篠さんの関係は急速に深まっていった。俺が自転車を教え、逆に笘篠さんにダンスを教わるという提案は即興ながらよくやったと思う。これで口実ができ、大体週に2、3日くらいの頻度で笘篠さんと会うようになった。
早いもので、あのストーカー野郎との一件からもう2週間が過ぎた。
正直に言おう。
楽しかった。
「東優斗の乗り方講座」は別に想定通りって感じだったが。まぁ、萌奈にレクチャーした経験から滞りなく自転車の乗り方を教えることができたからそれはいい。
楽しかったのはそう、ダンス。ダンスが思いの外面白かった。
流行りの韓流アイドルのやつがアップテンポでさ、最初は全然ついていけないんだけどね、時間をかけるほど上達してくから気持ちいいんよ。
……ってそんなことは今関係ないか。
そんなわけで、笘篠さんと仲よくなった、と思う。俺視点では。
とくに、お互いノッてしまって3時間くらいぶっ通しで踊ったあの日でかなり親密になったような気がする。ストーリーグラムを交換したのだってその日だし。
「笘篠さんと友達になる作戦」は成功したと言えるだろう。
ああ、そうだ。
間違いなく成功した。
でもどうしてだろう、作戦立案時に想定していた風景と結果が少し違う。
ゴールデンウィークが明けてから学校が始まり、放課後になると俺と笘篠さんは密かに公園でダンスを教わる。(自転車は一週間程度で乗れるようになった)最近はそんな日々が続いている。
そして次の日になって朝登校し、環境が学校になった途端、俺と笘篠さんの関係は希薄になる。
ん、あれ?
いや、学校で気まずくなっているわけではない。お互いの友達同士で固まっているせいで、話すタイミングがないのだ。
これは想定と違う。
想定では俺と笘篠さんが友達になり、学校で話すようになり、どこかのタイミングで明里さんがやってきて一緒に話すようになる筈なのだ。
ちなみに今回のこの作戦は去年も実行したが、いかんせん外堀を埋め終わったのが冬だったことと「桃色図書室作戦」に重きを置いていたためにおざなりになった。
現状はどうか。
学校では話せてすらいない!
去年は学校で話す機会があったというのに。
いや待てよ。
今の俺はそう、ただ焦っているだけだ。
ここはじっくり笘篠さんと話すことになる機会を待つべきだ。
掃除のときでもグループワークでもなんでもいい。機会は必ず巡ってくる。それを契機に話す機会を増やしていけばいい。
新学期が始まったばかりの今は、男は男のグループ、女は女のグループみたいな雰囲気が流れているだけなのだ。
そうに違いない。
というわけで、休憩!
さて、最近ゲームの腕が上がってるらしい萌奈をボコボコにするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます