第25話 選択肢の多い人生、少ない人生

若い頃は、人生の選択肢が無限にあるように思えた。


どの道を選べばいいのか、悩み、迷っていた。

しかし、六十七歳にもなると、選択肢は驚くほどシンプルになる。




例えば、レストランのメニュー。

若い頃は、ハンバーグも食べたい、エビフライも捨てがたい、とさんざん悩んだものだ。



しかし今は違う。



「ミーちゃん、俺は決めたで。『塩分控えめ』と書いてあるやつにする」

「あなた、それが一番賢明な選択よ」


選択の基準は、「食べたいもの」から「食べても(体に)大丈夫なもの」へと、

静かに、しかし確実に移行したのだ。



先日、テレビゲームをしている孫のダイスケ君(妄想の中で彼はすでに小学生になっている)に、

私は人生の先輩としてアドバイスを送った。


「ダイスケよ。人生はな、RPGゲームのようなもんや。

 どの職業を選ぶか、どの武器を装備するかで、未来は大きく変わるんやで」


するとダイスケ君は、コントローラーを握ったまま、こう言った。


「じいじ、違うよ。人生は、『どうぶつの森』だよ」

「…どうぶつの森?」

「うん。決まったゴールはなくて、毎日コツコツとローンを返しながら、

 自分の島を好きなように飾っていくんだ。たまにカブ価が暴落して破産しかけるけど」




衝撃だった。... なんと現代的な人生観!




私がまだ「勇者か魔法使いか」で悩んでいたというのに、

孫の世代はすでに「無人島でのスローライフと、カブ(蕪)による資産運用」

のフェーズに入っていたのだ!


「な…なるほど…!ローン返済の先にこそ、真の平和があるというわけか…!」


その日の夜、私は自分の人生という名の島をどう飾るべきか、真剣に考えた。

まず、島の特産品は「オヤジギャグ」にしよう。

これを全国に出荷して、ローン(住宅ローン)を返済するのだ。

島の旗は、もちろんプリンの絵柄だ。



そして、島に新たな住民を誘致する計画を立てた。


「ミーちゃん! 我が島に、新たな仲間を呼ぼうと思う!」

「誰をよ」

「まず、喋るフクロウや! 夜になると、島のいろんな情報を教えてくれるんや!」

「それ、ただの夜更かしでしょ」

「それから、タヌキの不動産屋や! ローンを組ませて、家をどんどん大きくしてくれる!」

「あなた、それ以上家が大きくなったら、掃除するのは私なんだけど」

「大丈夫! 住民が増えれば、税収もアップする! まさに、『あつまれ!年金の森』や!」



私の壮大な島おこし計画は、ミーちゃんの


「とりあえず、目の前の雑草(庭の草むしり)から始めなさい」


という、極めて現実的な一言によって、あっけなく頓挫した。




人生の選択肢は、いつだって足元から始まるらしい。

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