第21話 目覚まし時計との攻防

...我が家の朝は、けたたましいベルの音で始まる。



「ジリリリリーン!ジャーン!ジャーン!」


それは、もはや単なる目覚まし音ではない。

宣戦布告の号砲だ。


そして、この戦いの首謀者は、妻のミーちゃんである。

彼女は、私が絶対に手の届かない場所に、目覚まし時計を設置するという、

悪魔的所業を毎朝繰り返すのだ。


「なぜだ…なぜ俺は、毎朝この重力との戦いを強いられねばならんのだ…」


ベッドから起き上がるという、人類にとっては些細な一歩が、

私にとっては月面着陸に等しいほどのエネルギーを要する。




ある朝、私はついに革命を決意した。


「見てろよ、ミーちゃん。今日こそ、貴様の敷いたレールの上は走らん!」


私はベッドから動かず、念力で時計を止めようと試みた。



「止まれ…止まれ…止まれぇぇぇい!」



額に血管を浮き上がらせ、渾身のサイコキネシスを放つ。

しかし、時計は私の微弱な超能力を嘲笑うかのように、鳴り響き続けるだけだった。



ならばと、次の手を打った。。。。それは、「枕投げ」である。


野球部で培った正確無比なコントロールで、時計めがけて枕を放り投げる!見事命中!

…したが、枕が時計を優しく包み込み、むしろ音がくぐもって、より不快なサウンドになっただけだった。



作戦失敗。



「こうなれば、最終手段や!」


私は、ベッドサイドに常備してある「孫の手」を握りしめた。

これぞ、我が家に伝わる伝説の武器「エクスカリバー(孫の手バージョン)」である。

リーチを最大限に活かし、時計のスイッチを狙う!



カチッ!



静寂が訪れた。 。。。。。勝った!!!



私が人類の叡智の勝利に打ち震えていると、背後から冷たい声がした。


「あなた、それで満足?」


振り返ると、腕を組んだミーちゃんが立っていた。


「…満足です」

「そう。なら、今日の朝ごはんは、その孫の手でもしゃぶってなさい」


その日以来、我が家の目覚まし時計は、さらに巧妙な場所に隠されるようになった。

カーテンレールの裏、本棚の奥深く、時には洗濯機の中からも発見されたことがある。


もはや、これは単なる朝の目覚めではない。


ミーちゃんが仕掛ける、壮大な「リアル脱出ゲーム」なのだ。

そして私は、毎朝その謎に挑む、哀れな挑戦者なのである。



「よーし、今日の時計はどこや! まさに、宝探しならぬ、『ババ探し』やな!」



私の雄叫びが、今日も平和な朝の住宅街に響き渡るのであった。

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