第40話 炎の誓い ― 第四十話「それぞれの修行へ」
――反省会から数日後。
核心の拠点は、かつてない熱気に包まれていた。
全員が己の弱さを痛感したあの日以来、誰一人として休むことなく鍛錬に励んでいる。
それぞれの決意を胸に、仲間たちは新たな力を手に入れるため、過酷な修行へと挑んでいた。
◆悠真と黒木
「悠真、まだ甘い!」
黒木の闇の影が襲いかかる。
「ぐっ……!」悠真は炎を拳に宿し、必死に受け止めた。
黒木は炎と対極の闇を操り、あえて悠真の炎を削るような訓練を仕掛けている。
「お前の炎は強いが、荒すぎる。感情のままに燃やせば、いずれ自分を焼き尽くすぞ」
「……わかってる。でも、俺は……燃やし尽くしてでも、守りたいんだ!」
その叫びと共に、悠真の両拳から真紅の炎が奔った。
それは従来の炎よりも濃く、熱く、そして美しい赤。
轟音とともに黒木の影を吹き飛ばす。
「――《赤き紅の衝撃烈火》!」
黒木は吹き飛ばされながらも、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……やっと、お前の炎に“心”が宿ったな」
◆氷河と莉奈
氷河は氷の剣を片手に、氷壁へと切りかかっていた。
しかし振り抜いた刃は砕け散り、すぐに溶けて消える。
「……まだ、形にならねぇ」
「氷河くん……」
後ろで見守る莉奈が、ぎゅっと手を握りしめる。
氷河は汗をぬぐい、再び氷を練り上げた。今度は剣だけでなく、剣気そのものに冷気を纏わせる。
――刹那。
氷の剣は蒼白の光を宿し、吹雪を纏って煌めいた。
「――《ブリザード・ソード》!」
一閃。
氷壁は粉雪となって舞い散る。
「やった……!」莉奈が駆け寄り、瞳を輝かせた。
「氷河くん、すごい! かっこいいよ!」
照れ臭そうにそっぽを向きながらも、氷河の頬はほんのり赤かった。
◆隼人と澪
核心の地の広間を抜けると、そこには古代から残された訓練場があった。
石畳が広がる広大な舞台。その周囲には風を受けると鈴のような音を立てる石柱が並んでいる。
「ここか……俺と澪の修行場は」
隼人が息を吐き、腰に佩いた刀へと手を添えた。
「ふふっ。なんだか舞台みたいね」
澪は剣を軽やかに構え、風になびく髪をかき上げる。
彼女は高校時代、剣道大会を制した実力者。その姿は、戦場よりも舞台に立つ舞姫のようだった。
「俺たちの課題は――連携の強化、だ」
「ええ。私ひとりが斬るんじゃない。あなたと私で、ひとつの剣になる」
二人の目が合う。
その瞬間、訓練場に仕組まれた魔導機構が動き出し、無数の木人が現れる。鋭い刃を振り下ろす木人たちに、隼人と澪は同時に駆け出した。
「――はぁッ!」
澪の剣が閃き、風を切る。
「……フッ!」
隼人の刀も同じタイミングで振り下ろされ、二人の動きは不思議なまでに重なっていた。
木人の群れが襲いかかる。
澪は舞うように剣を振り、隼人は流れるように刀を抜く。その軌跡が交差するたび、風が生まれ、敵を薙ぎ払っていく。
「隼人さん、合わせて!」
「わかってる!」
呼吸がぴたりと重なった瞬間、二人の身体はまるで踊るように動き出した。
斬撃と斬撃が絡み合い、風と剣が奏でる旋律が訓練場を駆け抜ける。
「これが……私たちの技……!」
「――名付けるなら、『風の舞踏乱舞』だッ!」
二人の剣が交差した瞬間、爆発的な風が木人たちを一掃した。
突風が舞台を包み込み、二人の髪と衣が大きく翻る。
澪はその場に軽やかに着地し、息を整えながら微笑んだ。
「……まるで本当に踊っているみたいね」
「踊り……か。俺は剣を振っただけだが」
隼人は少し照れたように目を逸らす。
澪はくすりと笑い、彼の手を取った。
「じゃあ……今度は本当に踊ってみましょうか? 戦いのためじゃなくて」
「なっ……! ば、馬鹿言うな……」
顔を赤くした隼人はそっぽを向くが、澪の目は嬉しそうに輝いていた。
戦いの中で生まれた絆が、確かな形を持ち始めていた。
◆ルナの修行
ルナは拠点の広間で魔法石を握りしめていた。
その周囲には水の粒子が集まり、やがて透明な水球となって浮かび上がる。
「……水が、言うことを聞いてる……」
恐る恐る放つと、水球は矢のように飛び、壁を打ち抜いた。
さらに両手を胸に当てると、柔らかな光が広がる。
「これは……癒しの魔法……?」
見守っていた氷河の目が大きく開いた。
「ルナ……! お前の力なら、莉奈を回復させられる……!」
「えっ、わ、私なんて……」
「いや、すげぇ力だ。……これで、守れる幅が広がる」
ルナは顔を赤らめ、両手で頬を押さえた。
(悠真さんの役に立てる……? そんなこと、できるの……?)
こうして――。
それぞれが己の修行に励み、新たな力を手にし始めていた。
ラファエルに立ち向かうために。
そして、大切な仲間を守るために。
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