第38話 炎の誓い ― 第三十八話「帰還・核心の地へ」

――小樽運河の夜。

 悠真とルナは、冷たい潮風に吹かれながら電車の座席に身を預けていた。

 異国の観光客で賑わうはずの駅も、今は閑散としている。ようやく乗り込んだ列車の中、ルナは小さく肩をすぼめて悠真の隣に座っていた。


「……これで、本当に帰れるんですよね」

 不安げに問いかけるルナに、悠真は強く頷いた。

「帰れる。核心が……俺たちの居場所なんだ」

 ルナは頬を赤らめてうつむき、膝の上で手をぎゅっと握った。

(悠真さんの声……こんなに頼もしいんだ……)


 長い移動の末、二人は無事に帰還を果たす。

 地下の拠点――核心の広間に現れた悠真とルナを見て、待機していた黒木龍一郎が駆け寄った。


「悠真っ!」

 黒木を見上げ。悠真は笑みを浮かべた。

「……無事でよかった」

 黒木も微笑み返す。


 隣ではルナが緊張気味に立っていたが、黒木が腕を組みながら静かに見つめていた。

「カロリング王朝の娘か……なるほど、運命の巡り合わせというわけだな」


 その翌日――。


 成田空港に降り立った氷河と莉奈、隼人と澪。

 長旅の疲れも見せず、彼らは真っすぐ核心へと向かう。


 氷河と莉奈は道中からずっとやり取りをしていた。

「スカートで飛行機乗るのはどうなんだ……」氷河がぼやく。

「だって、氷河くんがドキドキするでしょ?」

「なっ……!」顔を赤らめ、窓の外を凝視する氷河。その姿に莉奈はくすくすと笑った。


 隼人と澪は並んで歩きながら、互いの手を強く握っていた。

「離れ離れの時間……もう二度と味わいたくない」

「……ああ。今度こそ俺が守る」

 二人の結びつきは、以前よりもずっと深くなっていた。


 そして――核心の広間で、再び再会の抱擁が繰り広げられる。


「莉奈っ!」悠真が駆け寄る。

 莉奈は兄に笑顔を見せながらも、氷河の腕にしっかりと抱きついて離れなかった。

「お兄ちゃん、ただいまっ! 氷河くんと一緒に帰ってきたんだよ!」

「……あ、ああ。よく帰ったな」悠真は苦笑を浮かべる。


 澪と隼人もまた、仲間たちと抱き合い、無事を喜び合った。

 その場に笑顔と涙が広がるが、ひとつだけ欠けたものがあった。


「……雷太とウメは?」悠真が声を落とす。


 ルナが首飾りから魔法石を取り出す。

「これで通信を繋ぎます」


 光が放たれ、そこから雷太の大声が響いた。

『おーーーーい!! 聞こえるか!? 俺たち今、北極だぞ北極!! なんでだよ!? 死ぬって!!』

『ガハハ! 何を情けないこと言うんだ若造! 寒さも試練のうちだ! 酒飲んで寝れば暖かい!』ウメの豪快な声。


 広間にいた全員が吹き出した。

「やっぱり雷太だな……」氷河が肩を震わせる。

 莉奈までけらけら笑い、「雷太お兄ちゃん、またギャグ要員だね!」と声を弾ませた。


 通信は途絶えたが、無事が確認できたことで皆の胸に安堵が広がった。


 その後、会議室に全員が集まり、悠真が黒木に問いかける。

「黒木。お前が叫んでいた“あの場所”……核心のことだったんだな?」


 黒木は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。

「そうだ……俺たちが立ち返る場所はここしかない」


「だが、お前自身はどこに飛ばされた?」氷河が問う。


 黒木はわずかに顔をしかめ、低く呟いた。

「……東京、上野動物園の猿山の中だ」


 沈黙。次の瞬間――莉奈が吹き出した。

「く、黒木さんが……猿山に……!」

 場が一気に崩れ、隼人までも笑みを隠せずに肩を揺らした。


 黒木は眉をひそめながらも続けた。

「手を触れていた者同士は二人で同じ場所に飛ばされる……それは間違いない。俺の場合は一人だったから単独で猿山だ」


 悠真が息を呑む。

「……つまり、ダークアームは」


 黒木は目を鋭く光らせた。

「俺のダークアームはいわばブラックホール。吸い込んだ者は必ずホワイトホールで世界のどこかに吐き出される。生きている限り、再び集合できるんだ。――幸運なことに、奴(ラファエル)はそれを知らない」


 言葉が落ちた瞬間、広間の空気が震えた。

 仲間たちは互いの顔を見つめ合い、拳を固める。


 ――核心に戻った。

 ここからが、真の反撃の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る