お姉さんと喫煙所で

草壁

プロローグ

「シガーキスって、したことある?」


お姉さんが唐突に、変なことを口走った。そのせいで、頭が真っ白になった。シガー、キス。どっちも知っている単語だ。タバコと、口づけ。


「な、なんですか、それ」

「……火、貸してあげる」

お姉さんは私の質問に答えることなんてなく、真っ赤に燃えるタバコが挟まる唇を突き出してきた。濃い青に染まった髪を耳にかけて、ぐいっと、顔を近づけながら。


あまりにも静かで、換気扇の音と、鈴虫の声しか、聞こえない。そのせいで、私の心臓の音がうるさい。


何をすればいいかは、なんとなくわかった。だけど、どうすればいいかわからない。


「……い、いいですか」

こんがらがって、なぜか許可を求めてしまう。自分がいまどんな顔をしているかなんて考えたくもないんだけど、お姉さんはにっこり笑った。


応えて、首を縦に振る。どくどくと、心臓の音が骨を伝う。


お姉さんのタバコが挟まった薄い唇が、窓から差し込むオレンジに染まって、そして。


私はゆっくり目を閉じた。





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