怪異事件File No.Extra しあわせ家族

Tora酸

第1話 報告書

これは20〇×年に起きた怪異の事件についての報告書である。

本件は少々特殊な事例であるため、注意されたし。



怪異事件File No.Extra「しあわせ家族」


以下ファイルの内容である。


本件は普通の怪異事件であったのだが、ある理由(後述)にあたり、No.Extraとする。


20●×年、●月△日にX県Y市の住宅で、5人の遺体が見つかった。身元を確認したところ、5人の内、3人は住宅に住んでいる赤間 剛(42歳)、赤間 香織(40歳)、赤間 優(17歳)であった。他2人の男性の遺体は、佐藤 大貴(17歳)、柳 周助(17歳)と判明した。数週間の捜査から、遺体の状況の異様さや事件の不自然さが感じられたため、未解決事件編集室の参入が決定した。

遺体の状況は、一人を除いて頭を喰われたように欠損しており、クマなどの動物の噛み痕ではなく、人の歯形のようであったという。なお、佐藤大貴のみ顔の欠損ではなく、体に大きな穴が開いており、それが死因とみられる。

捜査を特段引っ掛かりもなく、順調に進んでいった。どうやら、佐藤大貴、柳周助、赤間優はこの家からそう遠くはない民家を一度訪れており、そこにはある噂が存在していることが高宮高校での調査で判明した。その噂とは「しあわせ家族」というものであり、学校内周辺だけで広まっているものであった。噂の内容は・・(以下略

であり、この件から一層怪異の関与の疑念が確かになった。

民家の捜査が開始されると、様々な痕跡が明らかになった。捜査の時点では、しあわせ家族は存在していないことから、無力化と断定。赤間家は怪異を祓う家系であるため、赤間 優によって無力化が行われたと特定した。並行して、しあわせ家族についての捜査も行われ、彼らは本件の数年前に一家心中を起こしていたことがわかった。その際の何かしらの感情が彼らを怪異にしたのだろう。数日の捜査の末怪異の全貌を明らかにすることができた。だが、ここで順調だった捜査が難航し始めた。しあわせ家族は確かに居たが、本件発生より前に無力化されていることから、本件とは無関係と結論付けられた。捜査一課と合同で捜査を行いもしたが、人間にも怪異にもめぼしい収穫が得られなかった。捜査は混迷を極めた末そのまま本件は迷宮入りとなってしまった。以上の事から本件を怪異未解決事件と決定し、No.Extraとする。


                            編集者

                              斎賀 峯子


















20●■年 ×月▽日


この事件の全容を解明したため、ここに新たに情報を書き記す。

単刀直入に言おう。今回の件にしあわせ家族は大した危害を及ぼしておらず、原因はある一体の怪異であることが判明した。そもそもしあわせ家族という怪異は本来なら誕生することのなかった怪異なのである。そのわけは、一つだ。彼らが亡くなった時の感情、それは再び幸せな家族に戻りたいというものだった。確かにそれは彼らをこの世に引き留めた。地縛霊として。そう、彼らは人畜無害な地縛霊程度の存在でしかなかった。幸せだった頃の生活を繰り返すだけの幽霊だったのだ。だが、彼らが心中をしてまで願った幸せは再び壊れた。彼らの家にはある怪異が巣くっていたからだ。その怪異は人の魂、怪異そのものさえも食らう存在だ。しかも、厄介なことに怪異や幽霊を狂暴化させる能力を持っている。その他には、強い擬態能力を持っており、普通は感知できない。更に、怪異を狂暴化させる際は無機物や人間の中に巣食うことで自らの存在を悟られないようにする徹底具合であった。人間に関しては、用済みとなった瞬間、自ら宿主の人間を食い尽くし、また違う存在へと巣食うのだ。つまり、今回の事件の全容はこれである。


地縛霊であったしあわせ家族をその怪異が狂暴化させ、怪異しあわせ家族が誕生する。その数年後、佐藤大貴、柳周助、赤間優がしあわせ家族と対峙し、逃げ延びる。

だが、このうち柳周助がしあわせ家族の狂暴化の際に発現した精神操作の餌食となる。これを助けるべく、赤間優と佐藤大貴はしあわせ家族の無力化を行った。無力化は順調に行った。恐ろしいほど順調に。しかし、この時点で赤間優と佐藤大貴は詰んでいたのだ。その怪異はもうすでに宿主を佐藤大貴に移していたからだ。これより前は、しあわせ家族の民家にある市松人形に居たらしく、その痕跡を確認できた。そして、無力化を完了した二人の内、佐藤大貴は赤間家に向かい、そこで奴は佐藤大貴の体を食い破り、一家全員と佐藤大貴、柳周助を食らいつくした。

これがこの事件の全てだ。


私は今回の怪異の名前をと名づけることにした。


判明しているのは一部の能力だけで、どのような存在なのか行動原理は何なのかその他諸々が不明なのである。しかし、ここで特筆すべき点は巣喰いの持つ恐ろしく強力な擬態能力。それは、人間や無機物に巣喰っている間は、まず感知するのが不可能である。実際私もある道具を利用して、初めて痕跡に気づいたほどだ。この事件以降、巣喰いとみられる怪異の存在を調べてみたが確認されていない。私は更に巣喰いについての調査を進めていこうと思う。



                             赤間 礼

























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪異事件File No.Extra しあわせ家族 Tora酸 @Toarumajutsu3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ