Miss-behave
朝霧 篠雨
第1話
どうしてこうなったのだろう。そんなことばかり頭を過りながらも目の前の女性に夢中になっている。彼女の首を絞めると、僕のそれを彼女がきゅっと締め付ける。腰を浮かせ、子猫のように喘ぐ。垂涎の表情は切なく、それが僕をさらに燃え上がらせる。ああ、もっと欲しい。もっと知りたい。もっと、もっと、もっと、ぐちゃぐちゃにしたい。もっと、彼女を
大学に通って1年が経った。大学でも、やっぱりカーストみたいなものがあって、グループに分かれてみんな生活していた。
僕にも友達は何人かできて、でも気の許せるような人たちではなくて、いつも4、5人のグループで大学の講義前に教室の後ろの方の端に席を陣取って、オチもないのに「この話、笑えるだろ」と自慢げな顔を浮かべる話し手の大して面白くもない話に合わせて、少し大げさに笑うだけだった。ははは、と笑いながら、弦のように細く引いたまん丸の黒い眼で周りの反応を伺ってみても、やっぱりその目の奥は笑っていない。みんな、冷たい。いや、多分、この関係を、1年生の最初に何とか作れたこのグループを壊したくなくて、怖いから笑っているんだと思う。弱いんだと思った、みんなも。
いつからだろうか。彼女のことを講義の前や、合間や、終わった後にちらっと見るようになったのは。 彼女は、いつも一人だった。多分、友達は少ない、か、居ない。講義の前は彼女のことをじーっと見るわけにもいかないから、あまり聞いてもいない会話に相槌を打ったり、笑って、ちょっとのけぞったりしながら、シャッターを切るみたいに細目を作って彼女の一瞬を観察していた。
大学によくいるような、染めて傷んだ、しかしよく手入れされたようなそれではなく、長く黒い、頭の後ろで結んだだけの艶やかな髪に僕は惹かれていた。服装やメイクに飾り気があるわけではないが、色白の肌やそこはかとなく纏っているそのオーラはとても綺麗だった。その顔も、遠くから見る限りでは可愛らしかった。僕は、彼女に惹かれていた。
講義後、教室からみんなが出ていくとき、彼女はいつも席に座ったままでノートを取っている。いつもより早く立ち上がった時に確信したのだが、身長は周囲の女の子たちよりも少し低かった。座っている時には判らなかったが、その胸も、少し小ぶりなように思う。でも、長めのスカートのシルエットは、発達した下半身のラインをなぞっていた。
今、自分の家に帰ってきてひどく後悔している。なぜって、自分が彼女のことを観察していることが、気持ち悪いことだと思うから。変態みたいじゃないか。いや、そう考えるのも嫌なんだ。触れたら壊れてしまう蝶の繭みたいに、彼女を神聖視しているようで。
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