4
「こういうのはね、順番だから仕方ないけど、やっぱりつらいねえ…」
ひがんを通じてハツコから依頼があったのは、本人の葬儀から二日ほど後のことだった。
『自分の葬式で大泣きしていた孫がどうしても心配だけど、もう何もできないのが辛くて見ていられない』
道端で落ち込むハツコを見かけたひがんは、悩み事を聞き出して玲央に持ち掛けた。
「気になりっぱなしはヤだよね!」
ハツコを含むほとんどの幽霊は、生前と違い生者とのまともな意思疎通の出来なさに絶望し、諦めてしまうことが大半だ。
しかし、ひがんにはそもそも生前の経験そのものが無く、情報伝達の失敗を恐れる理由もなかった。孫本人にコンタクトを取るのが無理なら、孫の友達を間に挟んで協力してもらえばいい。
そうして駆り出されたのが、偶然にも幽霊と話せる体質の玲央だった。玲央自身も友達を励まそうという気持ちがあったからともかく。
祖母と孫の話はそれなりに、時間がゆっくりと癒してくれるだろうとはなった。
だけど、まだ解決していない問題もある。
「あとは野良猫か…」
玲央が眉間に皺を寄せる。
「ねこちゃん、どこ行ったんだろ」
ひがんも首を傾げる。すると、すぐ近くに半透明になった猫がやってきた。
「あっ、ねこ!この子も死んでるっぽいし、いなくなった子かな」
「ンギャー」
サビ猫の幽霊が、ひがんのローファーをフンフンと嗅ぎつける。少女が猫を抱き上げると、猫はだみ声で鳴いた。
「ああ、その子はね、あたしが子供の頃に飼ってた猫なんだよ」
「そーなんだ」
「もう何十年も前に亡くなったのに、会えたらまだ覚えててくれてねえ」
ハツコがサビ猫を指して説明する。老婆は懐かしそうに目を細め、ひがんの腕の中に収まった毛玉をなでる。
「昔の猫…、すいません、ノラっていう猫に心当たりはありませんか?生前に可愛がっていたって、栄人が」
玲央は友達の発言を思い出し、その行方を探ろうとハツコに尋ねた。ところがハツコは顔を曇らせる。
「それが、…どこにもいないのよ」
「いない?」
「どこにも…?」
ハツコの証言を、ひがんと玲央がそれぞれ復唱する。
「ノラもだいぶトシでね、あたしらどっちが先でもおかしくなかった。でも、ノラはこっちにも来てない」
「じゃあ、ノラちゃんはまだ生きてるかも?」
「いや。探したけど、この近所のどこにもいない。ノラじゃない他の野良猫も、外で飼われてる猫も、みんな…」
ひがんの問いかけにも、ハツコは暗い表情で返した。幽霊になってから散策しているうちに、空になったままのエサ皿や段ボール箱をいくつも見ていた。猫たちが一斉に縄張りを変えたとでもいうのか、不自然すぎる光景だった。
「この世にも、あの世にも、猫がいない…」
玲央は疑わし気に繰り返した。死んだだけならば、幽霊として会えるはず。なのに、幽体にもならず、かといって生きてもいない。
猫たちはどこに消えたのか?
「ねこー、おばーちゃん、この子なんてお名前?」
「タローちゃん。メスだけど」
「サビ猫だもんね」
「ンギャーン」
ひがんは猫とたわむれていた。猫は不服そうに鳴いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます