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「こういうのはね、順番だから仕方ないけど、やっぱりつらいねえ…」

 ひがんを通じてハツコから依頼があったのは、本人の葬儀から二日ほど後のことだった。


『自分の葬式で大泣きしていた孫がどうしても心配だけど、もう何もできないのが辛くて見ていられない』

 道端で落ち込むハツコを見かけたひがんは、悩み事を聞き出して玲央に持ち掛けた。


「気になりっぱなしはヤだよね!」

 ハツコを含むほとんどの幽霊は、生前と違い生者とのまともな意思疎通の出来なさに絶望し、諦めてしまうことが大半だ。

 しかし、ひがんにはそもそも生前の経験そのものが無く、情報伝達の失敗を恐れる理由もなかった。孫本人にコンタクトを取るのが無理なら、孫の友達を間に挟んで協力してもらえばいい。


 そうして駆り出されたのが、偶然にも幽霊と話せる体質の玲央だった。玲央自身も友達を励まそうという気持ちがあったからともかく。


 祖母と孫の話はそれなりに、時間がゆっくりと癒してくれるだろうとはなった。

 だけど、まだ解決していない問題もある。


「あとは野良猫か…」

 玲央が眉間に皺を寄せる。

「ねこちゃん、どこ行ったんだろ」

 ひがんも首を傾げる。すると、すぐ近くに半透明になった猫がやってきた。


「あっ、ねこ!この子も死んでるっぽいし、いなくなった子かな」

「ンギャー」

 サビ猫の幽霊が、ひがんのローファーをフンフンと嗅ぎつける。少女が猫を抱き上げると、猫はだみ声で鳴いた。


「ああ、その子はね、あたしが子供の頃に飼ってた猫なんだよ」

「そーなんだ」

「もう何十年も前に亡くなったのに、会えたらまだ覚えててくれてねえ」

 ハツコがサビ猫を指して説明する。老婆は懐かしそうに目を細め、ひがんの腕の中に収まった毛玉をなでる。


「昔の猫…、すいません、ノラっていう猫に心当たりはありませんか?生前に可愛がっていたって、栄人が」

 玲央は友達の発言を思い出し、その行方を探ろうとハツコに尋ねた。ところがハツコは顔を曇らせる。


「それが、…どこにもいないのよ」

「いない?」

「どこにも…?」

 ハツコの証言を、ひがんと玲央がそれぞれ復唱する。


「ノラもだいぶトシでね、あたしらどっちが先でもおかしくなかった。でも、ノラはこっちにも来てない」

「じゃあ、ノラちゃんはまだ生きてるかも?」

「いや。探したけど、この近所のどこにもいない。ノラじゃない他の野良猫も、外で飼われてる猫も、みんな…」

 ひがんの問いかけにも、ハツコは暗い表情で返した。幽霊になってから散策しているうちに、空になったままのエサ皿や段ボール箱をいくつも見ていた。猫たちが一斉に縄張りを変えたとでもいうのか、不自然すぎる光景だった。


「この世にも、あの世にも、猫がいない…」

 玲央は疑わし気に繰り返した。死んだだけならば、幽霊として会えるはず。なのに、幽体にもならず、かといって生きてもいない。


 猫たちはどこに消えたのか?


「ねこー、おばーちゃん、この子なんてお名前?」

「タローちゃん。メスだけど」

「サビ猫だもんね」

「ンギャーン」

 ひがんは猫とたわむれていた。猫は不服そうに鳴いていた。

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