それでも彼を愛せるの?

花草青依

プロローグ

 姉さまは、私に何度も言った。


 「その人は、やめておきなさい」と。


 でも私は、信じたかった。

 彼の優しい眼差しも、甘い言葉も、私のために選んだプレゼントも。全部、本物だと。

 初めて誰かに“特別だ”と言われた。初めて人に恋をした。

 私は、それを疑うなんてできなかった。


 だから、私は、姉さまを裏切った。

 あの人の手を取り、夢に見た純白のドレスに袖を通して、「永遠の愛を誓います」と微笑んだのだ。


 ━━でも、誓いの言葉の先に待っていたのは、愛ではなかった。


 鍵のかかった扉。誰も来ない離れの部屋。冷たい床。届かない食事。

 嘘を吐かれたとは、思いたくなかった。

 でも、私の中の何かが、静かに崩れていくのを感じた。

 思い出すのは、姉さまの顔。


 姉さまの声が、胸に響く。


 “それでも、彼を愛せるの?”


 私は、その答えを探しながら、闇の中で涙を流していた。

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